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第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第十八節

※閲覧注意


これからご覧いただきますのは全てを失った


彼女の話…

その日、真凛は急いで自宅に戻った

母から届いたメッセージに驚き蚊帳ノの付き添いも断ってしまった

でも本当にそれどころではなかった


真凛の叔父は少しだけ名の通ったピアニストだった

真凛は幼い頃に何度か叔父の演奏会を観に行ったことがあるがその記憶を今でも鮮明に覚えている

たくさんの観客に囲まれてとても大きな会場で演奏する叔父の姿は少女の目にはヒーローに見えた 


だがそれも長くは続かなかった


叔父は脳の病気を患い手術の結果両手に麻痺が残った

言うまでもなくピアニストにとっては致命傷だった

それでも叔父はリハビリを続けなんとか復帰を目指した 

しかしやはり全盛期のようにはピアノを弾くことができず仕事も減っていった

加えてSNSの発展に伴いそれまで可視化されにくかった心無い反応や批評が見えるようになってしまった

そんな不幸な出来事が重なった結果、叔父は精神的な病に陥った


さらに不幸は続く

もともと親の反対を無理に押し切ってピアニストになったのだ精神を病み引きこもりがちになった叔父のことを世間体を気にした彼の両親は見放した

それどころか親戚までもが腫れものを見るような目で扱い事実上の天涯孤独になってしまったのだ

唯一の救いは彼の弟、つまり真凛の父が見捨てなかったこと

そして真凛の母もそれに賛同して家に住まわせて面倒まで見たことだった


真凛もまた叔父を見捨てなかった

幼いころ憧れたあの姿がもう一度見たかった

母の勧めでピアノを始めた

『真凛が一生懸命ピアノを弾けばおじさんもきっと元気になる』という母の言葉がきっかけだった

たくさん練習してコンクールでも入賞した

中学生になってからは吹奏楽部にも入ってピアノとサックスという二つの楽器を習得した


ただこのころから気がかりだったのは叔父が何度か家からいなくなることだった

母の目を盗んでは一人で外出していたらしい

何度か近所の他人や通りすがりの人に心配されて警察のお世話になったこともあった


そしてその日は訪れる


叔父が死んだ それも自殺だった


いつものように母が目を離した隙に家を出た叔父は、使われなくなった古い小屋に忍び込みその二階から飛び降りたという

高さ自体はさほど高くなかったが打ち所が悪かったのと付近の道路から死角になってしまい発見が遅れたため亡くなってしまったのだ

小屋の二階、その窓際には遺書が遺されていて自殺で間違いないだろうと言われた

それから葬儀やら手続きやら警察からの事情聴取やらで両親は慌ただしくしていた

自分と弟はお葬式とお通夜に出ればいいと言われて自宅で待機することになった


不思議と涙は出てこなない

悲しみはある

突然、同居していた家族がいなくなったのだ驚きも悲しみもあって当然だろう

でもそれでもいつかはこうなると分かっていたからか少しずつ気持ちの整理はつき始めていた

まだお葬式も終わっていないのに薄情だなと思いつつそれでも疲れていたのだろうベッドにもたれかかったら自然と眠ってしまった

それから幼い頃の記憶、叔父との思い出のようなものが夢としてあらわれた

でも詳しくは覚えていない

玄関が開く音が聞こえて飛び起きたからだ

時刻はすでに二十三時を回っていた

きっと両親も疲れているはずだと思い玄関に向かおうとしたするとそこで声が聞こえた


「やっと終わったな」

「そうね ほんと死ぬときまで迷惑をかけるなんて…」

両親の声だ

姿は見えないけどだいぶ疲れた様子だった

「まあそういうなよ これで兄さんの遺産は俺たちのものだ」

「遺産なんてそんないいもじゃないでしょ? 大体、本当にあなたのものになるの?」

「もちろんなるさ 母さんも親父も兄さんとは縁を切っていたし身寄りもいないからなそれに俺たち以外にあの人が現役時代のギャラをほとんど使わずに貯めていたことを知らないんだからな」

なにを言っているんだろう…

遺産? 自分たちのものになる? そんなおかしいきっとこれは何かの夢だ

目の前の光景を否定したくて舌を噛む

ズキりと鈍い痛みが夢であることを否定した

「でも自殺なんかされたせいで生命保険がパーになっのは残念ね」

「まあそうだな でもおかげでだいぶ早く死んでくれたしいいじゃないか」

あまりにも現実と乖離した会話に吐き気がした

これは本当に両親なのかとも思う


「あんな人、これ以上面倒見てたらこっちがおかしくなるところだったわ」

「まあお金のためとはいえそれはすまなかったな 代わりにこれからはうんと贅沢していいからな」

「言われなくてもそうするわ あの人が死んでからが本番なんだから」

まるでドラマや映画の悪役みたいな台詞が流れる

冗談でやっていたとしても趣味が悪すぎる

「これも真凛のおかげだな あの子がピアノをしてくれたおかげで兄さんの死期が早まったようなものだろう」

「それもそうね ピアノのせいで精神的にまいってる人の側で毎日のように弾いてれば元気になるどころか余計、傷つくのに」

「最近なんて真凛の顔を見ただけで辛いなんて言ってたしな」

「そうそう それでいて一応はかわいい姪っ子だから本人には言わなくて… ほんと都合がよかったわ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」


「まあこんなこと真凛の前では言えないが」


やめて これ以上、なにも言わないで


「あの子が殺したようなものだな」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が殺した」



 部屋に飛び込む 息が荒くなって苦しい

血が滲むほど唇うを噛んだやがて鈍い鉄の味と一緒にちが流れた これは夢じゃなかった

「私が殺した」

言葉を反芻する 租借して飲みこんで理解する

あまりの苦みと絡みと毒味に息が苦しくなった

「私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した 私が殺した

私のせいでおじさんは死んだ」

壊れたラジオみたいに同じ言葉ばかりを繰りかえした

「私がピアノなんかしたから 私がピアノなんてしたから 私が…」

部屋の隅にあるピアノを見据える

そして机から椅子を引いて頭の上に持ち上げる

「ピアノなんて弾けなければよかったんだ ピアノなんてなければっ」

そして椅子を降り下ろした


「おじさんのピアノすっごくカッコよかった!」


「はは そうか 真凛ちゃんにそう言ってもらえておじさんも嬉しいよ」


「あのね 私、大きくなったらおじさんみたいなピアニストになるの それでねおじさんみたいにカッコいいヒーローになるんだ」


「ヒーローか… うん なら約束だ ピアニストじゃなくてもいいでも真凛ちゃんは誰かの心を照らせるようなそんなヒーローになる そしたらおじさんももっともっと頑張って真凛ちゃんの夢のお手伝いをするよ」


「うん! 約束だよ ゆーびきーりげーんまーんうそついたらはりせんぼんのーまーす」


「ゆーびきった」


その約束を思い出した途端、力が抜けた

椅子は音を合立てて床に落ちた 真凛も崩れ落ちた


「やっぱり… 私にはピアノ… 捨てることなんて…できないよ…」


おじさんにもらったピアノを自らの手で壊すなんて到底、無理だった


「ごめんね… おじさん ごめんなさい… ごめんなさい…」


大粒の涙とともに彼女の泣き声は静かにに響き渡った


だがしかしその声があの両親に届くわけもなく


それどころか叔父に伝わるとも限らない


真っ暗な部屋の中に落ちる涙と声は六月の雨のように止むことはなかった


壊れたオルゴールのような残響と輝きを失ったダイヤモンドのような雫


その一つ一つが溢れる度に彼女の心は壊れていく


彼女を救う何かがあるとすれば… それは…




その旋律は救いではなく…

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