第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第十七節
記憶は鮮明に 追憶は繊細に
そして思い出は残酷に
枯れた紫陽花と血の匂いは君を引きずって泣き叫んだ
慟哭は雨音に掻き消され
その雨は別れを告げた
「雨は好き?」
しとしととあるいはざーざーと振り続ける雨を見て彼女は言った
「好きなわけないだろ …だいたい雨が好きな奴なんているのか?」
「私は好きだな~ 夕方に降る少し小ぶりな雨」
彼女と最後に会ったあの日、劇場から出るとちょうど雨が降っていた
その雨を見て彼女の出した問いかけに自分は答えて、更に問い返した
結局、彼女は雨が好きな理由を答えることなく誤魔化した
そして
「じゃあ 今度の文化祭に来てくれたら教えてあげる」
そう言って一人、帰路についたのだった
自分の出した問いかけに対する答えは当然気になった
でもどうせまた会えるのだと本気で信じて疑わなかったこの時は文化祭に行くなんて考えは思い浮かばなくて
そのまま二週間が過ぎた
雅から聞いていた文化祭、その日から三日が経っても彼女は来なかった
きっとバンドで何かあり来れないのだろうと思った
あの文化祭で成功しようと失敗しようと自分には関係ないがあれだけ張り切っていたんだ
せめて少しぐらい良い結果で終わっていてほしいと思った
それから二週間が過ぎた
まだ雅は来なかった
寂しさは感じないがここまで来ない日が続くのは珍しかった
一々、返信するが来るのが面倒で連絡先も交換していない
そもそも向こうはバンドもあるし恋人もいるのだからたまたま知り合った男子中学生とここまでやり取りすることが普通ではない気もしたが…
それでもこんな急に途絶えるとは思ってもいなかった
そしてなにより驚いたのは
そんな状況に自分が寂しさを感じていることだった
そして二週間後
雅からの連絡がないまま二か月近く経とうとしていたその日、劇場には行かなかった
季節外れの低気圧の影響か朝から酷い雨が降っている
それでも台風の時に比べたらだいぶマシなので学校はあった
遅延した電車に乗って中学に向う
けれど段々と時間は遅くなっていきこのまま学校に行くのもバカらしく思いサボることにした
家に帰るのと反対の電車に乗って都市部のほうに向う
幸いこの雨も午後には止むらしい
それなら適当に時間を潰していつも通り夕方に帰る そのつもりだった
ふいに入った電気屋、そのテレビの前で立ち止まる
いつもは見ないニュースが流れていた
「次のニュースです。昨日発生したトラックと女性の衝突事故ですが女性の身元が判明しました。女性は県内の高校に通う……雅さん 十七歳と判明し警察が捜査を進めています。
なお、……さんの自宅からは遺書と見られるものが見つかっており自殺と事故、両方の可能性があるとみて捜査を進めています」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
画面には見慣れた女の顔が映る
持っていた鞄が地面に落ちた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っぁ」
「ああっ あ、 ああっ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫び声とともに彼の全てが零れ落ちた
その日、雨は止まなかった




