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第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第十六節

溶けた飛行機雲と無彩色な紫陽花…


夏の雨は終わりを告げて季節は廻る


待ち焦がれた秋風は冷たく


死を搬ぶ天使は泣いていた…


あの雨の日以来、女は頻繁に劇場を訪れるようになっていた

「へい龍弥! 今日もヤってる?」

「相変わらず五月蠅い(うるさい)女だな」

「まあまあそう硬いこと言わないでさ 龍弥だってほんとは嬉しいくせに」

そう言って鞄を下ろして適当な座席に座る

「…」

女のことなんて気にせずいつも通りにベースを弾いた


女は自分のバンドでギターをしているらしい

あの日、今度ギターを持ってくるからセッションしようと言われたがそれを断った

他人と演奏するなんて今の自分には苦痛でしかない

でもそんなことお構いなしに勝手にギターを持ってくるだろうと思っていた女はギターを持って来ることはなかった

当然、自分にとってはそっちのほうが都合がよかったし下手に理由を聞くのも面倒だったから無視した

ただ厄介なことにこうして毎日のようにここに来ては無言で自分の演奏を聞く日々が続いている


「いつまで来るつもりだ?」

「うーん 飽きるまでかな?」

バンドの演奏ならともかくベースだけのそれも基礎練や反復練習が中心のこんな演奏を見てなにが楽しいのだろうか

最初はニ、三日で飽きるだろうと思っていたらもう一週間以上、続いている

「何も面白くないだろう」

「そうかな? 私は面白いと思うけど…」

「なら言い方を変える 邪魔だ帰れ」

「もうまたそんなこと言って」

そう言って女は頬を膨らませた

そんな仕草など気にせず続ける

「だいたいお前には自分のバンドがあるんだろ?」

「そうだけどみんなバイトとか始めて忙しそうだからさ」

「だからってここに来るなよ」

ほかのメンバーがどうであれ個人練習はできるだろうと思った

そもそもこんな廃墟に入りびたるのだってあまり褒められたものじゃない

「バンドと言えばね 私たちって高校の軽音部?的なところでバンドしてるんだけどね」

「誰もそんなこと聞いてないんだが」

「えーいいじゃん ちょっとぐらい聞いてよー」

そう言ってたわいもない話を勝手に始めた


それから女が話し始めたことは心底どーでもいいことばかりだった


中学の頃ハマったアニメの影響でギターを始めたこと

入学した高校でたまたま軽音部を見つけたこと

一年の時はメンバーが集まらず一人で演奏していたこと

今年になって新入生が入部してバンドを組んだこと

その後輩と付き合い始めたこと

そんな話を長々と何日にもかけて聞かされた

そうして月日は経ち一か月が経過した


「ここ最近は来る頻度が減ったな」

「なになに? もしかして寂しいの?」

やたらと距離の近かったりウザがらみしてくるこの感じにもいい加減慣れてきた

「そんなわけないだろ ただ最近は自分のバンドで練習ができてるなと思っただけだ」

「なーんだ そんなことか」

つまらなそうにそう言って彼女はいつもの席に戻っていく

定位置になったその座席に座り自分の演奏を見ている

変わり映えのしない光景を見てなにが楽しいのか心底疑問だった


スマホのアラームがなって午後五時を知らせる

帰る時間に鳴ったのでベースをしまって出口に向かう

「ちょっとちょっと 買えるなら一緒に行くよ」

「勝手にしろ」

「んーもー」

そう言って頬を膨らませて彼女は跡をついてきた


この一か月で彼女の扱い方が段々と分かってきた気がする

多少無視しても気にしないようだし年下とか年上とかも気にしなくていい

思ったことをそのまま言っても受け流してくれる

コミュニケーションを取る上では自分にとって都合の良い相手だった

蟹所がここに来る頻度は毎日から三日に一回に減って今では週一だ

彼女曰く他のメンバーのバイトや補習が落ち着いてバンドとしての活動に専念できるようになったらしい

今は二週間後の文化祭に向けて練習しているようだった


「だから当分はここに来れなくなるかも…」

「あ?」

「もー また聞いてなかったの?」

いつものやり取りだ

自分は考え事をしていたり集中していると周りの話しがまるで聞こえない性質だった

そもそも彼女の戯れ言なんてまともに聞く必要はないのだが

「だから文化祭の準備があるからしばらくの間来れそうにないの」

「そうか まあ五月蠅いやつがいなくなってそれはそれで良いか」

「うわーひどーい」


そういってこちらを睨んでくる(睨んでるのか?)のだがまったく怖くない

まあたぶん本人も本気ではないんだろう

「それで文化祭はまともに出れそうなのか?」

「そりゃもちろん ていうかここでちゃんと結果を残さないと…」

目の前で拳を握りぐっと構えて言った

「ちゃんとライブできないと廃部だからさ」

「前のライブで失敗でもしたか…」

「してないよ!? まあ色々あるのだよ生徒会との亀裂とかさ…」

やれやれといった感じで手を降った

一々、挙動までうるさく感じた

「別に部活がなくてもバンドはできるだろ」

「分かってないな―軽音部だから良いんじゃん せっかくのJKだよロマンだよロマン」

「よくわからない理論だな」

「キミも大人になればわかるさ… それにね、自分にはできないとか上手く人と話せなくてバンドは無理だけど楽器には興味あるって子も部活なら入りやすいんじゃないかなって思うんだ」


彼女はそう言いながらこちらを見つめた


「だから私はあの場所を守りたい たとえそこに私がいなくても…」


「そうか…」

「てことでさ龍弥も文化祭に来ない?私たちのバンドがどんなものか気になるでしょ?」

「行かねーよ」

そう言って足早に出口を目指す これ以上引き下がれれると面倒だ

「ちぇー でも興味あったら言ってね」

「興味があればな」


そしてこの日が彼女と


雅と会う最後の日になるなんて この時の俺は何も分からずにいた

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