第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第十三節
その想いは届かない…
竹本先輩に連れて来られた建物はいわゆる廃墟だった
中は薄暗くてよく見えない外見は普通のビルみたいだけど背は低かった
「あの… ここってほんとに勝手に入っても大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、問題ない もとは古い映画館だったらしいんだが閉館して廃墟になってる」
先輩はひび割れたガラス製の扉を押し開けて中に入った
このまま立ち止まるわけにもいかず私もついていった
「あの…大倉くんはふだんここでなにをしてるんですか?」
「あいつならここでベースをしてるよ もともとが映画館だから音漏れは気にならないし広さもある」
「そう、なんですね…」
進んでいくとかすかに音が聞こえてきたそれか『Å』と書かれた扉を開けて中に入った
そこに大倉くんは立っていた
重く沈むような重低音がお腹の底から全身に響き渡る
「クソっ これじゃない」
一度止まった音が再び鳴り始めた、音は再び鳴り響く
「ダメだ また同じところ」
「おい 大倉!」
「あ!?」
怒りながら大倉くんはこちらに振り返った 怖い…
「蚊帳ノが来てる」
「だからどうした 出て行け」
「同じバンドメンバーだろなんで無視する?」
「バンドメンバーじゃない ただの他人だ 出ていけ」
大倉くんの言葉が胸の奥に突き刺さる
たぶん調子に乗ってたんだ 綾乃や真凛に気持ちを伝えられて天城くんとの話し合いも上手くいってだから勝手に大倉くんともすぐに仲直りできると思ってしまった
完全な思い上がりだそもそもこんなコミュ障陰キャぼっちな私にはそもそも何もできない
そんなことも分かっていなかった
その場に立ち尽くして何もできずにいると竹本先輩は近くにあったマイクを手に持った
そして…
「そうやってまた拒絶するのか? 雅先輩の時みたいに」
「っ…」
荒々しいベースの音が止まった
それから大倉くんは舌打ちをしてベースをスタンドにかけたそれからステージの上から降りて私たちに近づいた
「言ったはずだ 俺はもう誰とも組まない」
「じゃあどうして仮でも蚊帳ノたちのバンドに入ったんだ?」
「アイツが死んだ理由を確かめるためだ」
大倉くんの表情はいつにもまして険しい、その視線に思わず気おされそうになる
「だろうな んで、そのために利用したのか?」
「そうだ 本来ならサポートで入って確かめるつもりだったが廻兎の誘いで状況が変わった 下手にサポートよりもバンドとして入部したほうがやりやすいと思ったからな」
二人の会話の意味が理解できない
死んだ理由を確かめる? 利用していた? いったいどういうことなんだろう
「それでたった三日で辞めたか… 随分と中途半端な覚悟だな」
「手段は合っていた方法を間違えただけだ」
「つまりお前の中で蚊帳ノたちのバンドを利用するのは正しかったが自分がバンドに入るのは間違っていた…だから早々にバンドを抜けたのか」
私たちのバンドを利用する… どうしてかは分からないけど大倉くんの中では私も綾乃も真凛も彼の目的を達するための道具だったってこと…?
「はぁ 蚊帳ノ、どうせなら教えてやるよコイツの目的…どうしてお前たちを利用しようとしたのかを」
「おい、なにを言って…」
「コイツは恋たちの中に、元PRIVATELILLIEの中に雅先輩を殺したやつがいるんじゃないかって思ってる そしてそれを暴くためにお前たちのバンドに入っってたんだ」
あまりの話の大きさに頭が本当に追いつかない
雅さんが先輩たちの誰かに殺された? それを調べるために私たちのバンドに入って利用しようとした?
でもどうして大倉くんがそんなことを… 何も分からなかった
「ほんとに…そうなの?」
聞いたら傷つくと分かっていながら聞かずにはいられなかった
もしも大倉くんが雅さんがいた場所を守るためにバンドに入ったとそう言ってくれたら
そんな期待は無情にも
「ああ そうだ 俺は雅を殺したヤツを見つけるためにお前らを利用しようとした」
あっけなく消え去ったのだった




