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第一章 二千十八年の君へ 第五節

あの時、逃げだしていればあるいはあなたの未来は変わったかもしれない


あの時、諦めていたならきっとあなたにはもっと別の結末があったんだよね

「あれ? 真凛ちゃんと ええと」

「あ! 綾乃じゃん!」

小林さんの包囲網から逃れようとした最中、そこへ朝霧綾乃がやってきた


 思わず息が止まる

今朝、初めて会話したばかりなのになぜか彼女から目が離せない

それもそっか 朝霧さんは容姿端麗で男子からはもちろんだけど女子からも人気あるし

それにまさかこんなところで出くわすとも思ってなかったんだ

これはきっとびっくりしただけ


この時の私は自分でもどこか冷静ではないことに気が付いていなかった


「ところで二人とも体験入部だよね?」

「そだよ でもまだ誰も来なくてさ 片付けとか時間掛ってるだけかもだけど」

朝霧さんに目がいってる間にも二人の会話は進んでいた

「ところで真凛ちゃんはどこのパート希望なの?」

「アタシはキーボードかな~ 経験あるし」

そういえば小林さん、中学の頃に合唱コンクールで伴奏してたな

あとたしか吹奏楽部でトランペットだったような……

アレ? 桜水には吹奏楽部もあるのにどうしてこっちにしたんだろう

「そういえば真凛ちゃんて中学で吹部だったんだよね どうしてこっちを選んだの?」

「え、ああ なんとなく バンドとかJKぽいかなーって思ってさ」

小林さんにしては珍しく曖昧な答え方だった

「そうなんだ 何事も経験だしね それに高校生活は一度きりだし」

「そそ ちなみに綾乃は? どこ希望なの?」

「一応、ボーカルかな」 

朝霧さんがボーカル…… なんかいいな 絶対ファンになる

「すごっ マジで! じゃあ私らとバンド組まない?」

「へ?」

え? 今、「私ら」って言われた? まさか私も含まれてるの?

いやいや調子に乗るな蓬 きっと小林さんには他にもアテがあってその人のことを

「それってもしかしてそこの……」

「そそ この子ギター希望なんだって ちょうど良くない?」

「えっと その 私は……」

いやいやいやいや無理でしょ! 朝霧さんと同じバンドなんておこがましいというか

そもそもこんなコミュ症陰キャぼっちが朝霧さんみたいなスクールカースト最上位の人とバンド組んでいいわけないし

初心者以下の私なんて引き立て役にすらならないというか

なんなら朝霧さんの顔どころか魂に泥を塗ってしまう……


「ふーん 君、ギター希望なんだ やったこととかあるの?」

「あ、その すみませんないです」

少し屈むようにして目線を合わせこちらを覗き込んでくる 陽キャってみんなこうなの?

ていうかやっぱり嫌そうじゃん 

「未経験なのに私とバンド? 冗談は顔だけにしてよ(笑)」って思われてるよ……

もういやだ…… やっぱり身の丈に合わない勇気なんて持つんじゃなかった

結局、こうやって惨めな思いになるだけなんだ 私なんて 

「未経験でギターか…… すごいじゃん! おとなしそうな見た目なのにロックだね」

「え、えと」

「だってギターだよ なかなか勇気がいることだよ」

「いや そんな だってギターとかやってる人は私なんかよりもきらきらした人達で」

陽キャだからギターなんだ 目立ちたいとかモテたいとかましてやそんな理由すらないのにギターをしたいなんて許されるはずなくて

「確かに君は他の人たちに比べたら少し大人し過ぎるかもだけどさ でもそんな君だから私はすごいなって 一緒にバンドしたいって思ったんだよ」

両手を握られ目を合わせれてそう伝えられた

そんなふうに言われたら私には何も言えなくて


「アレ 一年来てんじゃん アイツらちゃんと伝えとけよ…」

背後から足音とともに少し背の低い男性が現れる

ブレザーの内側にパーカーを着こんだ靴紐の色的に二年生かな

(桜水高校は数年前に少子化の影響で付近の男子校と合併していてその名残りから男子の制服は学ランとブレザーから選択性になっている)

背中にギターケース?を担いでいて顔立ちはやや幼く見えた

今年中学生になった弟と同じぐらいにすら見える


「あ、音楽部の人ですか? アタシ達、体験入部で来たんですケド」

小林さんが臆することなく尋ねた すごい……

「まあそうだけど ああ悪いけど今日のうちの体験入部は無しだわ」

「え、どうしてですか?」

今度は朝霧さんが聞いた すごい…(二回目)

「知ってるだろうけど連中…二年バンドのやつらが新歓でだいぶ大立ち回りして生徒会と絶賛戦争中なんだわ 俺は個人でここ使うけど体験入部とか一年の相手とかなにすればいいか分かんねーし 三年も今年はいないからな 悪いけど明日からで頼むわ」

「了解です。 ちなみに生徒会と仲悪いんですか?」

小林さんすごいな(三回目)

ていうかそれ聞いて良いの!?

「ああまあウチは目を付けられてるからな まあ詳しくは他の連中に聞いてくれ」

そういうと先輩は音楽室の鍵をおもむろに開け始めた

朝霧さんの『今日はひとまず帰ろっか」の一言でその日は解散になった



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