第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第六節
そして二人は夜へと落ちる…
蚊帳ノが帰宅して一人きりになった音楽室に彼女は立っていた
あと三十分もしないうちに生徒は完全放課となり帰る時間になる
それでもここに留まったのは話しの途中で「あの人」の話になったからだ
ここはいつだって変わらない
変わらないからこそいつまでも取り残されているようで
自分が時の流れから外れているみたいに感じた
バンドでちゃんと反し合った方がいいなんて自分に言えた言葉じゃないな
そう心の中で呟いた
だってあの言葉は自分に向けて言った言葉だ
あの時、もっとちゃんと話しあっていたなら雅先輩は死ななかったかもしれない
あの時、きちんと思いを伝えていたなら今もPRIVATELILLIEは続いていたかもしれない
そんなもしもを反芻するように記憶を辿った
「こんなとこにいた」
ふと振り返るとそこには双葉桜が立っていた
小さくて強気で私の大切な「彼女」は呆れたようにこちらを見つめた
「まったく 電気もつけないでこんなところにいるなんて…」
「あ、ごめん 今日って一緒に帰る日だったっけ?」
「違うけど 珍しく惠のやつがこんな時間まで残ってたからどうしたか聞いたらアンタを待ってるって言ってったから」
そうか、そういえばそうだったなと思い出す
蚊帳ノの相談に乗るように言ったあと自分は校門にいるからと言われたのを思い出した
「まあ蓬ちゃんから恋はもう少し音楽室に残ること聞いてたみたいだけど惠も惠で変に気を遣うから待ってたみたいよ」
「あ、えっと それは悪いことしたな…」
「もうすぐバイトに行かないとって言ってたから私が代わったの まったく、遅くなるなら連絡ぐらいしなさいよね」
「ごめん…」
相変わらず桜には頭が上がらない
周りに気を遣えて状況をよく見てる
それに頭も良いしかわいいしなんで自分なんかと付き合ってくれてるのかとつくづく思う
「まあ それは建前で…」
「んっ」
寸前、桜が目の前に近づいたそれからけなげにも背伸びをして
そのまま唇を奪われた
「ちょっとここ学校…」
思わず後ろに飛びのいて手で口元を覆った
「別にいいじゃない 他に誰もいないんだし」
「でもグラウンドからとか見られたら…」
「あーもう うるさいわね」
そう言って今度はすぐ真後ろにあった椅子に座らされて唇を重ねられる
下手にのけぞると頭から転びかねないから抵抗もできなかった
それを見越してか桜は平然と舌を滑りこませてくる
息ができない
呼吸しようとすると桜の小さな舌を噛んでしまいそうだ
でも嫌ではなかった
口の中はほのかに冷たくてたぶんさっきまで桜が飲んでいたであろう紅茶の香りがした
目を閉じてされるがままになる
「ちょっと暑いわね」
そう言いなが桜は制服のブレザーを脱いでリボンを床に置き、胸元のボタンまで外し始めた…
「ちょっちょっ それ以上はヤバいって!」
「なによ アンタもムラムラしてんでしょ それにさっきまで後輩とヨロシクヤってた教室で今度は恋人ととかアンタ好みの最高のシチュじゃないの?」
「そんな性癖ないからね!? だいたいこんなところでシたらそれこそ最悪でしょ!?」
そもそも私はさっきまで蓬ちゃんとそんなことはシてないし
それに桜以外の子を抱く予定も抱かれるつもりもなかった
「あっそ」
そう言って桜は制服の乱れを直し始めた
「ごめん… 別にしたくないわけじゃ無くて… そのBPOを弁えたいというか…」
「TPOでしょ 放送倫理を弁えてどうするのよ あとTPOでも意味が違うし」
間違えた上にマジのツッコミ… 泣きそうになる
「まあ半分は冗談のつもりだったけど私も悪かったわ」
「桜が謝るなんて珍しい…」
「なに? 私だって自分の非ぐらい認めるわ」
そう言って桜は荷物をまとめて椅子と机をもとに戻した
「帰るわよ もう下校時間だから」
「あ、うん」
桜に言われるまま音楽室を後にした
それから駅まで二人で手を繋いで歩いた
付き合いたての頃は慣れなかったそれも今ではしないと寂しく感じる
そもそも女の子同士なら手を繋ぐぐらい別に普通のことで…
「どうして あの時、キスしたの?」
「なんで?」
普段なら割と正直に答えてくれる桜が珍しく聞き返した
「なんでって…いつもは学校であんなことしないから」
「…ただの気まぐれ 誰もいなかったし学校でする背徳感を味わいたかっただけよ」
「嘘だ」
桜は手を繋いでない右手で裾を掴んでいた
これは桜が噓をついてる時にする癖みたいなものだった
「チッ」
「なんで舌打ち!?」
またも機嫌を損ねてしまったのかと不安になる
「泣きそうな顔してたから…」
「え?」
「恋が泣きそうな顔してたからつい… どうせ雅先輩のこと思い出してたんでしょ?」
「それは…」
図星だった たしかにあの時は雅先輩のことを思い出して落ち込んでて…
「だからアンタには私がいるんだって教えるためにしたのっ」
「桜って時々、嫉妬深いところあるよね…」
「はぁ?」
「ごめんなさい…」
つい思ったこと(私の思う桜のかわいいところ)を話したら怒られた
「でもまああの感じだと蓬ちゃんには手を出してないみたいだからヨシとするけど」
「当たり前だよ! 桜以外の子に手を出したりしないから!」
「でも雅先輩のことで落ち込んでたんでしょ?」
「それは…」
ぐうの音も出ない… でもやっぱり桜が嫉妬深いだけな気もする
「ならちゃんと誠意を見せてよね…」
「もちろん! コンビニでアイスでも買おうか?」
桜に許してもらえるならと必死に取り繕う
「今日、家に行かせて なんなら泊まらせて」
「え?」
桜から出された条件は想像の斜め上をいくものだった
「どうして…?」
「さっきの続きをするため… って言わせないでよ …ばか」
「あ、えーと」
さっきの続き… それこそほんとにBPO(放送倫理機構)に引っ掛かりそうな内容で
「こないだはアンタが女の子の日だからってさせてくれなかったじゃない」
「あれはほんとごめんて 色々タイミングというか間が悪かったからで…」
「なら今日だったらいいでしょ? 恋の家ならバレても大丈夫だろうし」
「……うん」
結局、私の理性は自分の欲望と桜のかわいさに負けた
そしてそのまま私の家に身かったのだった




