第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第四節
誰がために戦い、誰がために祈るのか
楽譜の読み方… 当然ながら私は楽譜なんて読めない
小学校の頃の音楽の授業でも教科書にドレミを書いていたしギターを始めた未だって指の抑える位置が視覚的に書かれたコード譜しか使ったことがなかった
「あ、安心してね 一般的な楽譜じゃ無くてギター専用のやつだから」
「そうなんですか?」
「そうそうTAB譜(タブ譜)って言うんだけどね」
そう言いながら先輩が見せてくれた紙には普通の楽譜みたいにびっしりと線が引いてある
いくつかのまとまり毎に間が空いていてぱっと見は音符のないただの五線譜みたいだった
「よく見ると線が六本あるんだけどこれがタブ譜だよ この線が一番上から一弦、二弦、三弦って感じでギターの弦を表してるの」
「なるほど…」
確かにちゃんと数えると線は六本あるし左端にはアルファベットで『TAB』って書いてあった
「それでこの線の上に書いた数字が抑えるフレットの位置」
先輩はペンで上から三番目、三弦を表す線に『7』と書いた
「じゃあこれはどこを抑えたらいいと思う?」
「あ、えとここですか?」
私は差し出されたギターの三弦、その七フレット目を人歳指で抑えた
「正解! じゃあこれは?」
次に書かれたのは一番下の線、数字は『3』だった
「ここ…で合ってますか?」
「オッケー正解! ちゃんと理解できてるみたいだね じゃあこれはどうかな?」
次は下から二番目と三番目の線、つまり五弦と四弦だそこにそれぞれ『5』と『7』が書かれている
「これって… こうですか?」
私が抑えた指の形はさっき教わったパワーコードとまったく同じ形だった
「そうそう 合ってる合ってる いい感じだね」
「ありがとうございます…」
それから私はタブ譜の読み方について細かい説明を聞いたりパワーコードを使った曲の練習をした
さっきまで楽譜を読むなんてとてもできないと思っていたけれどタブ譜なら簡単に読めた
それがなんだか嬉しくて
さっきのパワーコードもそうだけど初めてギターが楽しいと思った
「色々と教えて頂いてありがとうございました」
「全然、後輩に教えるのは先輩の務めだしそれに…雅先輩がしてくれたことを私もやっただけだから…」
「雅先輩…」
「あ、雅先輩っていうのは去年までいた音楽簿の先輩のことでね もう辞めちゃったんだけど…」
先輩の口から雅さんの名前が出て驚いた
さっき竹本先輩と話した感じだと雅さんのことは禁句になってるみたいだったからこれ以上話すのは良くない気がして…
「こんなこと言ったら余計、蓬ちゃんにプレッシャーかけそうなんだけどさ私はここを音楽部を守らないとって思ってる」
「それは…そうですよね」
当然だ、音楽部がなくなったらバンドを続けるのだって難しくなる
それにここにはたくさんの思い出があるはずで
「雅先輩のためなんだ」
「あ、えと」
「私ね中学の頃は引っ込み思案で友達もいなくてさ 高校に入ってもこのまま変わらないのかなって思ってた でも雅先輩のおかげで変われたんだ」
意外だった
ライブでそれも大勢の人前で歌っていた先輩が中学の頃は陰キャだったなんて
「雅先輩はもういないけどそれでも雅先輩のいた場所は無くしたくない」
「そう…なんですね…」
先輩の気持ちはなんとなく分かる
自分を変えてくれた人がいなくなってでも気持ちの整理ができなくてせめて居場所だけでも思い出だけでも残したいって気持ちなんだろうな
でも分かりますなんて言えなかった
私は大切な人を失ったことがないから、その痛みを知ったようなことは言えなかった
「ごめんね 自分勝手な理由でさ そもそも桜っていう恋人がいるのにこんな…」
「そんなこと…ないです 私も音楽部がなくなるのは困りますしそれに…」
『大倉くんも先輩と同じ気持ちです』と口にしようとして思いとどまった
勢いで余計なことを口走りそうになる
「うん ありがとうでもそんなに気にしなくていいからね でも蓬ちゃんは他の誰かのためじゃなくて自分のためにライブをしてね」
「自分のために…」
「そう 蓬ちゃんは優しいから今回みたいに自分のことを責めたり我慢することが多いみたいだけどそうじゃなくてもう少し我儘でいいんだよ」
綾乃からも言われたことだ
もっと自分のしたいことしたくないことをはっきり言っていいんだって
でも私にはそれができなくて…
「まあ 私もにたようなことあったからさ少しは気持ちがわかるつもりだけどたぶんこのまま蓬ちゃんが我慢したままだとバンドの仲もよくないままになりそうだからさ」
「はい…」
「思い切ってバンドリーダーとかしてみたら?」
「…はい!?」




