第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第二十五節
彼女の物語は終幕に向けて動き始めた
その先には大倉龍弥、私の知ってる数少ない男子生徒にしてこの遠足で真凛とペアを組んでいる彼が立っていた
「もうすぐ集合時間なのに見当たらないから探してみれば…」
「あ、ごめん もうそんな時間?」
真凛が慌てて立ち上がった
「別に… 急がせるつもりはないが時間には間に合うようにな 以上だ」
そういって大倉くんは立ち去って行った
「え、なにあのイケメン… もしかしてあの子が真凛のペア?」
「ヤバくね 背高いしモデルか俳優かよ…」
宇佐美さんと佐藤さんが口々に褒めた
「ああ まあ うん…」
真凛は照れくさそうに、でもどこか複雑そうな顔をしてた
真凛たちと分かれて一人立ち尽くしているとどこからともなく雛鳥さんがやってきた
「あ、いたいた蓬ちゃん!」
「雛鳥さん、すみません勝手にいなくなって…」
「いいよいいよ 友達と合流してたんでしょ? ボクもクラスの子に呼ばれてたしさ」
そう言って雛鳥さんは私のほうを覗き込んだ
「さっきまで泣いてたようには見えなくなったね」
「うっ おかげさまで…」
ここに来る前、雛鳥さんの前で号泣した私は雛鳥さんに借りたメイク道具で泣き跡を誤魔化していた
おかげで真凛たちに不審がられることもなく一緒にごはんが食べられたわけで
「まあボク的には蓬ちゃんほど泣き顔の似合う女の子はいないかな~」
「そ、そうですか…?」
褒められれる気がしない…
というか泣き顔の似合う女の子とかまるでどこかの悪役の台詞だ
「まあ、そんなことはともかくとしてだよ 先生に聞いたらあと一時間ぐらいはロープウェイが出ないらしいからここで待機だってさ~」
「そうなんだ…」
山頂なんて滅多に来ないから知らなかったけどこの時期は乗客も少ないからロープウェイの稼働頻度が曜日によっては少なくなってるらしい
「てことであと一時間ぐらいテキトーに駄弁ってよっか」
「あ、はい…」
それから私と雛鳥さんは景色が一望できる展望スペースに移動した
「うへ~ 結構高いんだね~」
「高いところは苦手?」
「まああんま得意じゃないかな~ 観覧車とかもあんまりだし」
私も高い所はあまり得意じゃないけど雛鳥さんも苦手なのは意外だった
陽キャは遊園地とかで真っ先に絶叫マシンとか乗りそうなイメージだから…
「蓬ちゃんは部活とか決めた?」
「あ、えと 音楽部に…」
「へー そうなんだ 入るの?」
「あ、いや 入るというかもう入ってます… 成り行きで…」
生徒会とのいざこざがきっかけで入部してしまったけど本来ならまだ体験入部期間なはず
改めて考えると入学から一週間で入部するとか結構、異常な気がしてきた…
「雛鳥さんはもう決めた…んですか?」
「いや~ ボクは部活には入んないかな~」
「そうなんだ…」
陽キャでも部活に入らないことなんてあるんだ…
いや、逆か? 陽キャは青春を謳歌するのに忙しいから部活に参加しない的な?
「スポーツとか苦手だしさ~ かといってなにができるとか、なにか興味があるとかそういうのもないし、結局やりたいことないんだよねー」
「友達と遊ぶのが忙しいとかじゃなくて?」
「まあそういうことではないかな」
どうやら本当にやりたいことが見つからないらしい
雛鳥さんとの距離が縮まるほどに段々と雛鳥さんのことが分からなくなっていく…
「じゃあ 楽器とかはどう…ですか…?」
バンドメンバーが集まらない焦りから余計なことを口走ってしまった
「うーん 楽器は弾けないし…正直、あんまり興味もないかな~」
「そう…ですよね… すみません…」
「ああ、ごめんね 別に嫌ではなんだけどさ 中途半端に入るのは蓬ちゃんに失礼かなっておもっただけで」
「あ、いえ ほんとすみません… 余計なこと口走って…」
断られたことよりも余計なことを話したせいで気を遣わせてしまったことにダメージを受けた… これだからコミュ障陰キャぼっちは…
「まあこの話はこれぐらいにしておいてさ」
雛鳥さんは無理やり話題を変えてくれた
「蓬ちゃんて好きな子いる?」
「へ?」
本当に無理やりだった
陽キャでコミュ強の雛鳥さんならもっと話題が思いついたはずなのに!?
よりにもよってなカードが切られて一瞬、たじろいだ
「恋愛的な意味でそういった人はまだいない…かな?」
「まだってことはこれからできるの?」
「うぐっ かもしれないし ……分からないですけど…」
相変わらず会話の中でのカウンターが鋭い
的確にこっちのライフを削ってきてた
「まあ、愛だとか恋だとかまだ分かんないよね~」
「雛鳥さんはどうなんですか?」
やられっぱなしは癪なのでこっちも攻めてみる
「いないよ~ まあ今はね…」
あっさり躱された上、なんとなく匂わせてそれ以上の追撃をゆるさない構えだった
強い… これが陽キャの実力…
「逆に嫌いな人とかいないの?」
「嫌いな人…」
頭の片隅に思い浮かぶ人影が決して無いわけじゃないけどでも
「いない…かな」
「ふへ~ 蓬ちゃんて人の悪口とか言えないタイプでしょ?」
「まあ たしかに誰かのことは悪く言ったりしないけど…」
そもそも私なんかが人様にあれこれ言えた立場じゃ無いわけだし
「本当に? 最近イライラしたこととかないの?」
「まあ はい… しいて言えば弟にバカにされた時ぐらいで…」
たしかに若菜にバカにされてイラっとしたことはあったけど、でも若菜のことが嫌いかと言われるとそうでもないし…
「そっかー でも蓬ちゃんてなんかいじめられそうだし、自分のこといじめてた奴を憎んでるとかありそうかなーって思ったんだけどな~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
自分のことをいじめていた相手…
そう言われて脳裏に二人の人物が思い浮かんだ
『家山さん』と『琴峰』さん……
この二人を恨んでいるかと言われると正直、分からなかった
たしかにあの二人にはすごく傷つけられたし嫌なこともされたけど
でも暴力とかそういう目に見える実害はなかったわけで、少なからず発端は私が悪かったわけで…
でも心の何処かではなんとなく黒い霧のようななにかが晴れないままでいて
「あ、えと ごめんね ちょっとしたブラックジョークのつもりだったんだけど…」
「あ、はい すみません…」
「いやー これに関してはボクが悪かったよ ほんとごめん」
雛鳥さんはそう言ってこの話題を終りにした
「まあでも蓬ちゃんがいじめられそうだなって思ったのは、ほんとのことでさ」
「やっぱり そうですか?」
「あー 別に蓬ちゃんが悪いわけじゃなんだけどさ ちょっと注意喚起みたいな?」
注意喚起… やっぱり私の行動とか態度って周りから見たらおかしいのかな?
「蓬ちゃんは桜水高校裏掲示板って知ってる?」
「あ、えと… よく分からないです…」
自分の行動に問題があると思っていた私には寝耳に水な話だった
裏掲示板、アニメとかでたまに聞くけどあれって実在したんだ…
それに生徒数の少ない桜水高校にそんなものがあること自体が意外だった
「今時は裏のグループLINEとかでやり取りするものなんだけど桜水だと生徒しかログインできない裏のサイトが悪しき風習的に残ってるらしいんだよね~」
「そうなんだ… でもどうしてそんなこと雛鳥さんが知ってるの?」
入学してからまだ二週間弱、裏掲示板の存在なんてそうそう知る機会もないはずだ
それに雛鳥さんがそんなものに興味があるとは思えなくて…
「あー まあボクはねー 桜水のことをよく知ってる知り合いがいたからさ、その人から少し聞いてたんだよね」
「そうなんだ…」
雛鳥さんが自分からそんなものに関わろうとしていなくてホッとした
「掲示板についてだけど、ボクもいまいち分かってなくてさ なんか気に入らない生徒のありもしない噂を流すとからしいんだけど蓬ちゃんはほんとに何も知らない? それこそ噂程度の情報でも良いんだけど…」
「すみません ほんとに何も知らなくて…」
特に親しい先輩や卒業生が知り合いにいるわけもなく、裏掲示板なんて存在も本当に今初めて知ったばかりだった
「ふーん ちなみに音楽部の先輩はなにか言ってなかった?」
「あ、はい そういう話は特に…」
雛鳥さんは随分と掲示板について聞いてきた
でもそこまで譲歩を集めようとすることにどこか違和感を覚えて…
「あの… どうしてそこまで…」
「特に理由なんてないよ しいて言うなら……」
雛鳥さんはそこで言葉を区切って一呼吸おいたそして
「ただの興味…かな」
そう呟いたのだった




