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第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第二十三節

後悔は止まない


あの時、ボクは…

雛鳥さんからハンカチを受け取って目にあてる

不思議なもので止めようと意識するほど涙は止まらなった

「あ、えと ごめんなさい…」

「え、いや 謝らないで ボクがなんかいじめたみたいになっちゃうからさ」

ハンカチで顔を覆っているから分からないけど雛鳥さんの声は焦っていた

「いや、なんかごめんね ほんとそういう、追い詰める気はなかったんだけどさ」

「あ、いえ これはほんと私が悪いので…」

そうだ 雛鳥さんは悪くなかった

悪いのは全部自分、今になって湊さんの気持ちが分かったところで一度してしまったことは取り返しがつかない

だからこの痛みは因果応報で自業自得、自分のしでかした罪に対する罰なんだ

「うーーん なんかなに言っても逆効果になりそうだし…」

「すみません… でもほんと気にしないで…」

「いや 気にするよ! なんとなく分かってたけどほんとに繊細というか無駄に優しいんだねキミは!」

「へ?」

優しいって以前、綾乃にも言われたことだけど私は優しくなんてない

自分勝手で自分本位…誰かに嫌われたくないなんて嘘で自分が一番可愛いだけのクズだ

中学の頃からなにも変わってない…

「もうちょっと他人に対してテキトーに生きていいと思うよ」

そういうと雛鳥さんは私の手を掴んで立ち上がった

「場所、変えようか ボクが手を引いてくから蓬ちゃんはそのままでいいよ」


雛鳥さんは顔を覆っている私の手を引いて歩いてくれた

すごくゆっくりとそれでいて転ばないように丁寧に歩く

途中で曲がったり石が落ちているとそのたびに教えてくれた

そうして目的地に着いた

「そろそろ顔開けても大丈夫?」

「えと、 あ うん…」

勢いは弱まっても涙はまだ止まらなかった

けどいい加減ちゃんと前を見ないと…

これ以上、雛鳥さんに迷惑かけるわけにいかないし そう思って恐る恐る顔を開けた

そこにはシカ小屋があった

この神社は県内では珍しくシカが飼育されている神社だ

県内に動物園が一つもないからこうして一般的飼育されていない動物が見れる場所は少なかった

私も小さいころはよく家族とここのシカを見に来てたんだっけ

そんな感想がわずかに芽生える


「あ、えと」


「どうしてここに連れて来たのかって?」

「あ、はい…」

私の言おうとしたことを先に言い当てられて少し驚いたけど、想像以上に自分の声が鼻声になってて上手く声が出せなかった

「ここってさ 普通に野菜とか もってきたエサあげていいんだよね~」

そういうと雛鳥さんはフェンスに近づいた

すると次々にシカがやってくる

「あの…」

「さっきの話の続き…みたいな もしかしたらそうじゃないかもだけど…」

雛鳥さんは私の方を振り返って言った

「ここにいるシカってさボクたちのことエサをくれる人間かそうじゃない人間かぐらいでしか見てないんだよね」

「あ、はい…」

「もちろん、イタズラしたりいじわるする人には寄ってこない」

雛鳥さんは続ける

「だから蓬ちゃんも自分に親切にしてくれる人かいじわるする人かそんなざっくりした付き合い方でいいんじゃないかな?」

「あ、えと それは どういう…」

私もシカになれってことなんだろうか?

絶対に違うと思ったけどさっきから涙、止まらないし上手く思考も追いつかない


「つまり 誰にでも優しくして誰にでも気を使う必要ないってことだよ 蓬ちゃんだってシカにエサを食べてもらえなくても、それでいじわるしようとか思わないでしょ?」

「それは そうだけど…」

「だったら蓬ちゃんに優しくしてくれる人だって蓬ちゃんがちょっとそっけないぐらいで嫌いになったりしないし、それで嫌がらせするぐらいならその程度ってことだよ」


雛鳥さんが私に伝えたかったこと

それはもっと肩の力を抜いて、ある意味何も考えずに人に接して良いということ

私に親切にしてくれる人はみんなそうしたいからしてくれてるだけで

もし私が何も返せなくてもそれで嫌いになったりしないからって


「でも…わたしなんかじゃ…」

「なんかじゃないよ」

瞬間、目の目に雛鳥さんがいた

まだ涙で視界が曇ってて前がよく見えなかったけどたしかに雛鳥さんは私の目を見ている

「蓬ちゃんは私なんかなんて言うけど 蓬ちゃんはみんなから好かれているし、いないとダメなんだよ」

どこか冷たくてでも熱を帯びた声で言われる

「誰もかれもみんな勘違いしてるけどその人の命はその人だけのものじゃない」

鋭い刃みたいな視線だ

普段のおっとりしたようなやや中性的で、でも女の子らしいかわいらしさのある雛鳥さんからは決して想像できない視線…

睨んでるわけじゃないのに目が離せない程の威圧感がある

それほどまでに熱い視線なのに感情が読めなかった

怒りでも哀しみでも憎しみでもない、ただ氷の中で燃え続ける炎のような視線


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

声が出せない

呼吸がいつもより深く、ゆっくりになる

「自分のことを見下して卑下するのは勝手だけど」

「・・・」

「いつか本当に辛くなった時、簡単に命を捨てることになる」

「・・・」

「そうなったあとでどれだけの人が苦しむのか… ちゃんと考えたほうがいいよ」

「あ、えと…」

ここまできてやっと声が出た


呼吸を整える

さっきまで深く息を吸ったり吐いたりし過ぎたせいで鼓動がブレていた

雛鳥さんは少しだけ驚いた様子だった

「ああ なんかごめんね急に…」

「あ、いえ…」

知り合ってまだ数時間の付き合いだけど今までのイメージとは違う雛鳥さんに驚いた

「怖がらせてごめんね」

「あ、いえ そんなことは…」

「ところでどうして話せたの?」

いつも通りの視線に戻ってたから視線を逸らしてしまったので表情はよく見えなかったけど雛鳥さんは不思議そうに尋ねた

「あ、その…」

どうして…と言われても反応に困った

けど、一つだけ言えることは…


「なんとなく泣いているみたいだったから」


さっきも今も泣いてるのは自分のほうなのに矛盾してる…

けど答えられる理由はそれだけだった


「そっか」

雛鳥さんは一言だけ呟いた



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