第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第十八節
俺は俺自身が何がしたいのかわからない
そんなこんなで真凛率いるギャルグループとの会話は昼休みの終りを告げる予鈴とともに終った
なんか最後には連絡先まで交換したり…
やっぱりギャルってすごいな…
午後の授業も終って音楽室に行こうとした所を真凛に引き留められた
「あ、よもぎ~」
「あ、はい」
「今日は部活ないんだって~ なんか男子の先輩が使うらしくて」
「そう…なんだ」
新入生歓迎会では二年生は竹本先輩以外でバンドを組んでるみたいだったから男女で練習日が分かれているのは意外だった
「あと明日も休みらしいよ」
「そうなの?」
「ほら 明後日、遠足じゃん?」
そういえばそうだった
桜水高校では年に一度、遠足…という名の校外活動がある
学年毎に行なわれるそれは毎年、この時期に行なわれていて学年の親睦を深めるための行事らしい
たしか一年生は近くの山に、二年生は商店街に行って、三年生は海に行くらしい
各学年、目的地で清掃や美化活動をすることになってるけど一年生はなぜか登山…
それ故にクラスではかなりブーイングが起きていた
ちなみに私はいつものごとく登山には参加しないことになっている
みんなは嫌そうだったけど私からみたらみんなで山登りは楽しそうに思えて…
きっとないものねだりなんだろうなと分かってるけどそれと同じくらい、みんなと同じことができないことに寂しさを感じた…
「んで遠足に持ってくおやつなんだけどさ」
「あ、うん…」
余計な考えに飲まれて真凛の話を聞き逃しそうになった
「アタシの家の近くに駄菓子屋さんあるんだけど行ってみない?」
「あ、えと…」
真凛の家の近くならたぶん中学のすぐ側だ
そうなると中学の同級生に会うリスクも大きいわけで…
でもこの間の湊さんの件があるから断りづらかった…
「あ、まあ 行くのは明日だし みっちーとうさみん…お昼に話した子たちも行くからさ 無理にとは言わないけどもしよかったら教えて」
「あ、うん…」
そう言い残すと真凛は下駄箱のほうへ去っていった
「明日か…」
正直、行こうか行くまいかかなり悩む…
もちろん誘ってもらえてすごく嬉しいけど…
やっぱり中学の時の知り合いに会うリスクを考えたら慎重に動くべきだと思った
高校に入ってからは中学の周辺エリアには近づいてないし
でもここで誘いを断ったらもう誘ってもらえないのでは?という不安もあった
真凛ならそんなことしないと思うけど…
でも一応の可能性ぐらいには考えておかないと…
頭の中を考えが巡る…
そんな時だった
「あっ すみません…」
誰かにぶつかりそうになって謝った
すぐ前に飛びだした人影を見ると
「いや こっちこそ悪かったな…」
学ランを着た男子生徒…中庭で会った『彼』だった
「ん? どっかで見たことあると思ったらお前か」
「あ、えと…」
自分よりもすごく背が高く見えて思わずたじろいだ
「最近、昼休みに中庭に来ないからどうしたかと思ったら こんなとこで会うとはな」
「お、お久しぶりです…」
たった二回くらいしか会ってないのに顔を覚えられててびっくりする
ていうかほとんど会話もしてないのに!?
「どうかしたのか?」
「あ、いえ 今日はベース持ってないんですね…」
「ベース? なんでお前がそんなこと」
しまった 昨日、帰り道で偶然見かけたことを思わず口にしてしまった
こんなんじゃまるでストーカーみたい…
中学のトラウマが蘇り胸が痛くなった
「あ、その 昨日、たまたま見かけたので… すみません…」
「そこじゃなくて なんであれがベースだと思った?」
「あ、その ギターにしては大きく見えたので…」
身長差があるにしても随分と背の高い『彼』が背負ってちょうどいい大きさだった
だからギターではなくベースだと思ったんだけど違ったのかな?
「なにか楽器でもしてるのか?」
「へ!?」
「何かしら楽器でもしてないと少しデカいぐらいでベースなんて発想にはならない」
「あ、えと ほんと最近ですけど音楽部に入って… それでギターを…」
どこか高圧的に感じる彼の声に対してまるで自白剤を飲まされたみたいに言葉にした
「なるほどな…」
「あ、えと…」
「昨日、俺が持っていたのはベースであってる」
どこか納得したような
あるいは感心したみたいに『彼』は言った
「ギターは楽しいか?」
「あ、えと まだ分かんないですけど でも楽しいとは思います」
まるで面接官みたいな問いかけにおっかなびっくりしながらも答えた
「ならまあいいのか」
「あ、はい…」
もとから顔を見れないけど声色からも表情が見えない…
決して話しかたに感情が無いわけじゃないんだけどどことなく無機質だった
「バンドは組むのか?」
「あ、えと一応、もうすでに組んでて…まだドラムとベースが決まってないんですけど…」
「そうか…」
また余計なことを言ってしまった…
ベースを持ってた人にバンド組んだけどベースが見つからないなんてまるで…
「あ、えと でもべつにすぐにメンバー探さないとではなくて…」
「まあ 安心しろ 俺も別にお前らのバンドに入る気はない」
みなまで言わずともいや、語るに落ちてたな…
「すみません…」
「別に謝る必要はない」
そう言って手に持っていた鞄を肩に掛けた
「俺は適当なバンドに入る気がないだけだ もし本気でやるつもりで、それでも見つからないなら声をかけろ」
「えと、それって…」
「まあどのみちサポートぐらいならしてやる」
そう言い残すと彼は歩き始めた
「あ、あの ありがとうございます…」
「ああ 中庭にいるから何かあればそこまで来い」
振り帰らずに歩いていく
「蚊帳ノ蓬…だったか」
「あ、はい」
名乗ったことはないのになぜか名前を呼ばれた
「大倉龍弥」
「あ、えと」
「名前くらいは言っておかないとだろ」
そういうと今度こそ『彼』いや 大倉くんは私の前から去っていった




