第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第十四節
やっぱり私なんかが話しかけちゃダメなんだ…
いや、でもこれは記念受験みたいなものだから…
フラれた…
ううっ 明日から生きていける気がしないよ…
手放していた意識を手繰り寄せて覚醒する
ゆっくりと目を開けて身体の感覚を取り戻した
今度こそメガネをきちんと掴んでかける
時間を見たら二十時を過ぎていた
「もうこんな時間か…」
そう呟いて体温計に手を伸ばす
身体の不調はすっかり良くなっていたし熱も引いたようだった
体温計を見てもそれは間違いなさそうだった
このままなら学校にも行けそうだ
とりあえず、治りかけが肝心だからこのまま寝ていよう
そう思ったらふと人の気配に気が付いた
「なんだ起きたのか」
本棚のすぐそばに弟の若菜がいた
「なんで私の部屋にいるの?」
「借りてた漫画を返しに来たんだよ」
若菜は不機嫌そうに答えた
「なんで今?」
わざわざ私が寝込んでるときになぜ本を返しに来たんだるう
その意図が分からなかった
「ついでに続きを借りに来たんだよ 蓬が起きてるときに借りようとすると余計な本まで勧められてうざいから、具合が悪くて寝てるうちにこっそり借りようとしただけ」
「ああそう…」
だからといって寝ている姉の部屋に勝手に入るのもどうかと思ったけど
「んで なにか食べれそうか?」
「ううん さすがに寝起きだし… このまま寝る」
「そうか」
若菜はそのまま私の本棚から勝手に本を取って出ていこうとする
「そういえば めちゃくちゃ電話来てたから代わりに出といた なんか高校のクラスメートらしいけど めっちゃ心配してたからちゃんと連絡しとけよ」
そう言って立ち去った
電話がきていた?
慌ててスマホを見るとLINEの通知が三桁に着信履歴も三十件越え
しかも全部、不在着信だった
相手は全部、真凛からで昨日の夕方から連絡が取れなくてめちゃくちゃに心配されていた
ただ最後には、『弟くんが電話にでてくれて具合が悪かったこと聞いたよ 寝てたのに電話とかしまくってごめんね お大事に』ってメッセージで終っていた
とにかく急いでメッセージを送った
真凛からはすぐに返事が返ってきてまたすごく心配されたんだけど
それでも熱が下がって体調も回復したことを伝えたら安心してもらえた
翌日、私は朝からシャワーを浴びて、ごはんを食べ学校に行く準備をした
お母さんとおばさんからは休んでも良いんじゃないか?って言われたけど、真凛にも心配をかけたしこのまま家で寝ていてもまた悪夢を見そうな気がしたから学校に行くことにした
学校に着いたら早速、真凛が話しかけてきて
「蓬ー 大丈夫?」
「えと うん 心配かけてごめんね」
「てか学校に来て大丈夫なの? 無理してない?」
私のことをじっと見つめながらすごく心配している…
私なんかのことをここまで心配されるとなんだか申し訳なく思ってしまう
「大丈夫だよ…」
「なら良いんだけどさ 昨日は綾乃が風邪ひいたみたいで二人ともお休みかなーって思ってたから…」
「そうなの?」
綾乃まで風邪を引いていたなんて初めて知った
たしかに綾乃からの連絡は少なかったけど真凛の口ぶりからして私と同様に休んでいたんだと思った
「まあとにかく、無理しないようにね!」
「あ、うん」
そう言われて私は自分の席に着いたのだった
この日の授業は特に変わったこともなくいたって平凡な感じだった
お昼休みに、三人でごはん食べる約束だったけど綾乃がいないのと私が病み上がりでそっとしておいたほうがいいのでは?ということになりこの日は延期した
いつもは占拠されがちな私の机もこの日は空いていて中庭に行かなくてもよかった
お昼ご飯(菓子パン一個)を食べ終えて、鞄から本を取り出す
何気に久しぶりに自分の席で本を読めた
綾乃が休んだことが気になって内容が頭に入ってこなかった
「あ、あの 蚊帳ノさん!」
突然、声をかけられて振り向いた
私のすぐ側にメガネをかけた女の子が立っていた
湊渚沙さん同じクラスの生徒でたしか廊下側の前のほうの席に座っている子だ
普段はあんまり目立つことがないけど誰とでも仲のいい綾乃や他の大人しそうな子たちと一緒にいるようだった
けど同じグループの子は側に居なくて湊さん一人のようだった
「あ、えと 呼びました?」
「あ、はい その…」
私も人のことは言えないけど湊さんもまあまあなコミュ障みたいだった
もじもじとしてなにか言いたそうだったけどここで急かすのは良くない
そう思って待っていると
「あの 蚊帳ノさんももしよかったら食べませんか?」
そう言って彼女が私の目の前に差しだしたのはお菓子の袋だった
中にはクッキーとかチョコとかが入っている…
「あ、えと…」
思わずフリーズする
たいして仲がいいわけでもない、ましてや入学してから今まで一度も話したことがない湊さんがこんなコミュ障陰キャぼっちにお菓子をくれるなんて何かの間違いだと思った
それにお菓子をもらったところで今は何も返せるようなもの持ってないし
もし、あとから渡すってなっても自分から湊さんに話しかけるなんて難易度が高すぎる…
「えっと その ごめんなさい… 気持ちは嬉しいんですけどなにも持ってないので…」
「あ、えと… こっちこそ急にごめんなさい…」
そう言って湊さんは自分の席に戻って行った
断ったのが間違いな気がしたけどこんな私に湊さんが優しくしてくれる必要なんてなかったしなにも返せない私にもらう資格なんてないと思った
けど自分の席に戻った湊さんは机に突っ伏していた
なんだかすごく申し訳ないことをした気がする
でもいまさらさっきのお菓子もらってもいい?なんて聞きに行けないし…
すると心配そうに湊さんの友達が話しかけている
ここからだと地味に声が聞こえないな…
湊さんは顔をあげて 泣いてる!?
えっ マジで!?
しまったほんとにこれは絶対に間違えちゃいけない選択肢を間違えたヤツだ…
すぐにでも駆け寄って全力で謝りたかったけどここで私が行けば、湊さんがこんなコミュ障陰キャぼっちにせっかく優しくしたのにそのやさしさを無碍にされて泣き出した…ってことになってしまう…
湊さんは友達に何度も頷きながら『大丈夫』って言っている(気がする)
とりあえず湊さんが一人になったタイミングですぐに謝りに行こう…
そしてとりあえず全力で謝ってまた後日、菓子折りを持参してもう一度、誠心誠意謝ろう
良かれと思って断ったつもりがまさか傷つけてしまうだなんて…
これだからコミュ障陰キャぼっちは…
けどそのあと湊さんが一人になるタイミングは訪れず…
昼休みを終える予鈴が鳴った
午後の授業はまともに集中できなくて、なんとか放課後に時間が作れるかと思ったけどHRが終ったら湊さんは足早に帰ってしまった…




