第一章 二千十八年の君へ 第二節
あの時の私はキミを理解っていなかった
だからきっとあの時からキミを傷つけていたんだよね…
朝のHRが終ってからは体育館に移動し学年集会と授業に関する説明会が行なわれた
校則についての説明や二年生から始まる選択授業、それを決めるために一年次にどのように授業を受けるべきかなどまあ不通なら退屈な内容なのだろう
しかし無駄に真面目だった私はそれらすべてを途中メモなんてしながら聞いてしまい無駄な労力を使って昼休みにはいった
教室に戻った私はいつも通り自分の席でお弁当を食べ、読書でもしてさっきの学年集会ぐらいたいくつな昼休みをやり過ごそうとして
立ち尽くす
「それでさ~こないだ中学の友達が早速彼氏できたとかLINEしてきて ほんとうざいよねー」
「わかるー ウチもこないだ同小の男子から彼女と手を繋ぎたいんだけど一週間て早いかなとか聞かれてさー マジどーーーーーーでもいいわって思ってー」
話し声がする 私の机の周りで
そこには隣のクラスの女子二人(ごめんなさいまだ名前わかんない)と同じクラスの
小林真凛がたむろしていた
もちろん陰キャコミュ症ぼっちな私がそこどいてくださいなんてあのギャル集団に言えるわけがなく
私の隣や前の席の人はどこか別の場所でお昼を食べているらしくスペースは空いていた
というか早いな!? トイレから戻るまでの間に居座られてるし
ギャル集団恐るべし これが高校生活の洗礼
そもそも私が声かけられないのが悪いんだけどさ
とはいえグループの中心にいる小林さんはこの学校で唯一の同じ中学から進学した同級生
まあ私も進学するにあたり陽キャは無理でも最低限、脱底辺陰キャ 脱ぼっちを目指し
中学三年間まともに切らず腰あたりまで伸びた髪を肩の高さまでバッサリ切り、眼球に異物を挿入れるという恐怖と苦痛に耐えてメガネからコンタクトにした
その努力の甲斐もあってか入学式でまさかの再開を果たした(すれ違っただけ)小林さんは私の正体には気が付かなかったのだ
だがしかし流石の私でも某キザな怪盗みたく声帯までは変えられない
小林さんに話しかけるということはそれだけで正体がばれるリスクを背負ってしまう
私はロッカーからお弁当を取り出しそのままトイレへUターンした
高校入学三日目、私は僅かなタイミングのズレと己の弱さのせいでいわゆる便所メシへと追い込まれた
朝早くから張り切ってお弁当を作ってくれたお母さんのことを思うと胸が痛い
しかしこのまま勇気を出し、小林さんに話しかけ私のことを万が一にでも思い出されれば中学時代の汚点が露呈し不登校の高校中退コースまっしぐら
そうでなくともギャル化した小林さんにナメクジレベルのコミュ力しかない私が話しかけ
「は? ウザ、人外が話し掛けないでくれる?」なんて言われた日には死ぬしかない
そうしてもっとお母さんを悲しませるより例え便所メシでも帰ってから「今日は友達と食べたんだ お母さんの卵焼きすっごくおいしくてみんな褒めてたよなんて感じでいつも通り笑顔であることないこと楽しそうに報告すればいい
こんな私を片親で育ててくれてるんだ弟と違ってデキが悪い以上せめて嘘でも笑わないと
そんな荒んだ考えでトイレに籠ろうとするがまたも行く手を阻まれる
トイレの前にまたも別の陽キャグループがいた
今度はギャルではなく男女混合のパリピ系 さっきより相性が悪い
しかたない今日はこの後、生徒会主催の新入生歓迎会だけだしこのままお弁当を持って適当にうろついて放課後に空いてる教室かどこかで食べて帰るか
すべてを諦めてお弁当を持って徘徊するという奇行に奔ろうとしたその時、中庭に空いているベンチを見つけた
ちょうど大きな木の下にある錆びれたベンチだ
少し大きめで塗装もボロボロ、所々ささくれ立って見えるけど天気も良いし周りには誰もいない
誰にも邪魔されずお弁当を食べるにはちょうどいい場所だった
あ~ やっと落ち着ける 少しぼろいけど騒がしい教室や孤独感がやばいトイレよりマシだよね 放課後に居残って空き教室探す手間も省けたしサクっと食べて適当にここで時間をつぶそう
だがしかし神様はどうしてか私に厳しかった
パキっと小枝が折れる音ともに近づく人影、本人はヘッドフォンをしているらしく自分が落ちていたそれを踏んだことに気づいていない
男子だった 靴紐の色から見て一年生、顔も名前も分からないからたぶん隣のクラスだろう(二クラスしかないけど)
学ランの上着を大胆に開けて中には明らかに学校指定ではないTシャツを着ている
白地になにやら柄と英文の描かれた正直ちょっとダサいやつ
髪の毛はなんか一部だけ染めてるしピアスも空けてる
無駄に大きくて高そうなヘッドフォンで音楽を聞きながら不機嫌そうに近づいてくる
やばい 不良だ 不良なんて漫画かアニメにしかでてこないと思ったけど現実にいるんだ
その人は私のことなんて気づいていないみたいにベンチに腰かけた
一人分ぐらいしか距離が空いていない 怖い
そのままなにをするまでもなくたぶん聞いている音楽のリズムを足で刻み始めた
私の今の心拍数ぐらい早い ドンドンドンという音とドクドクドクという音が共鳴する
そしてなにやら「ここはもっと音高くしたほうがいいか」とか「スラップは反って邪魔か」とかぶつぶつと言っている
怖い
私は男の子が苦手だというか男性全般が苦手だ
私の両親は私が生まれた頃から別居していて五歳年下の弟が生まれてからは会う機会が極端に減った
そのせいか私は父親というものを知らないし男性と話す機会も無かった
さらに言えば中学時代のトラウマもある男子生徒や当時の担任だった男性教師によるところもありただでさえどう接したらいいのかどう話したらいいのか分からない男性への苦手意識は更に高まってしまったのだ
女子高に入ろうかとも考えたけど学費が高すぎてやめた
そんなこんなで今現在感じている心拍数の上昇は恋愛的な意味を持たないマジなやつなのだ
やっぱりお昼を食べるのは諦めてここから立ち去るか?
いや、この人が着てすぐに立ち去るのは感じが悪くないか?
そもそも私に気が付いてるか分からないけどこのまま立ち去って目をつけられたら?
たぶん、普通に声をかけられただけで死ぬ
そんな脳内会議のさなかふと彼の動きを確認した時だった
「ひっ」
腕時計を見ようとした彼の左腕、かすかだが黒い模様のようなものが見えた
え? あれって入れ墨 いわゆるタトゥーでは?
誤解のないように言っておくと私はさほど入れ墨やタトゥーに抵抗はない
むしろ海外のお姉さんが蝶のタトゥーとかを入れてるのを見るとかっこいいなとか思う
(怖いから自分には入れないけど)
ただそれは成人していればの話だ
個人の自由に口出しはしないが未成年でピアスとかましてやタトゥーはいかがなものか?という考えをこの時の私は持っていた
そして女性ならかっこいいと想えるそれも男性がしているだけで恐怖の象徴に早変わりする
ていういくら校則がゆるくてもやばくない? 一応、髪染めるのもピアスもNGだし
入れ墨 タトゥーとか流石に高校生はマズイでしょ いや、まさその道の人だったりするのか? とにかくここは大人しくしていよう
下手なことしたらマジで殺される
朝五時起きでお母さんが作ってくれたお弁当はほとんど味が分からないまま私の胃の中に消えた
そのあとも私はあまりの怖さにその場から立ち上がれなくなってしまい
ようやく昼休みの終りを告げるチャイムとともに解放された
となりに座ったままの彼はヘッドフォンで音楽を聞いてるためか微動だにしない
本当なら次の授業(今日は新入生歓迎会だけど)が始まることを伝えるべきなんだろう
でも今までその見た目の怖さから石像と化していた私にそんな勇気もなく
どのみち不良ならそもそも授業もサボるだろう(偏見)を言い訳にしてその場を立ち去ろうとした
いや待てよでもこのまま彼が新入生歓迎会に遅れて隣にいた私に気が付いていたら?
それこそ彼の怒りをかってしまうのでは?
そんなことになったらほんとに殺されてしまう
ああ もう なるようになれ!
「あ、あの チャイムなりましたよ……」
小声で語りかけて一応伝えたという事実を作り
小走りにその場から立ち去った




