第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第八節
こんな最低な私でもあなたは全てを肯定してくれて…
真凛と合流した私たちはフードコーとへ移動した
「二人とも服が買えたようでなによりだよー」
「真凛のおかげでいつもより気に入った服が見つかったよ ありがと」
「私も… 二人のおかげでちゃんと服が買えて… ありがとうございます」
荷物としてはさほど大きくはないけど生まれて初めて自分で買った服を持っている…
完全に真凛と綾乃のおかげだけど達成感はあった
「んじゃとりあえずお昼ごはんってことでフードコート来たけど、二人とも初めてのフードコートはどう?」
「なんかいろんなお店があってすごいね…」
「人が多い…」
私と綾乃は口々に感想を言った
「ひとまず適当に席を決めて、それから注文してだね」
そういうと真凛は空いてる席を指さして言った
「じゃああそこで席取っとくからふたりとも見てきていいよー」
「え、いいの?」
「いいのいいの アタシはもうだいたい決まってるから」
「じゃあ お言葉に甘えて 行こ 蓬ちゃん!」
そう言って綾乃に手を引かれた
「綾乃ちゃんはどうする?」
「私は、うどんとかかな…」
綾乃からはぐれないように人混みの中をついていく
「うどんか~ いいよね! 蓬ちゃんはうどん好き?」
「まあ うん」
実際はうどんよりお蕎麦なんだけどなかったから今回はうどんにした
まあ本当ならラーメンとかも食べるんだけど…
「ラーメンとかもあるのかー でもカロリー高そうだよね」
「まあ そうだね…」
口ではそんなこといいつつ実際は気にしてなかった
私の場合、体質的に太りにくいらしい もとから食べる量が少ないけどそもそも食生活を気にしなくても太らない(胸もない)
ただ今回は人が多すぎて正直、フードコートにいるだけで疲れた…
二人に申し訳ないからそんなこと言わないけど、食欲もあまりない
とりあえず、さっぱりしたものにしたかった
なんて心のどこかでこの状況を悲観してる自分に嫌気がさす…
言葉にしないだけで本当はこんな悪い考えを抱いてしまう
『二人に申し訳ない』なんてただの言い訳だ
せっかく誘ってもらって一緒に遊んでもらってるのに自分にとって都合が悪いけど抜け出せない状況を二人のせいにしてる
『そんなんだからいじめられたんだよ』 心の中の自分が囁く
そんなの私が一番よく分かってる…
誰かの好意を無碍にしてそのくせ独りが嫌だと泣きわめく…
なんて最低な人間なんだろう
「蓬ちゃん?」
綾乃が心配そうに私を見つめた
「大丈夫? なんだかまた元気なさそうだけど…」
「えと ああ ごめん… 大丈夫だよ」
また気を遣わせてしまった 本当にダメだな…
「とりあえず注文も済んだから一度、戻ろっか」
「ああ うん そうだね」
元から語彙力なんてないけど疲弊してるせいかいつもより言葉が出せない気がした
席に戻ると真凛が水を用意してくれていた
「おまたせ~ ごめんね遅くなって」
「全然大丈夫! んじゃちょっと行って来るね」
そういうと真凛は立ち上がってお店のほうへと向かった
私と綾乃は席に座った
私は真凛が用意してくれたいた水を一口飲んだあと、手に持ったコップに視線を落とした
「疲れちゃったよね」
「えと まあ はい 多少は… でもそんな動けないほどじゃないですし…」
綾乃の問いかけに正直に答えるべきか迷って曖昧な返事になつた
「そっか~ ねえ蓬ちゃん… 楽しい?」
「えと それはもちろん」
「そう? 無理してない?」
無理はしている、でもそれは誘ってくれた二人に対しての自分なりの誠意なわけで…
違う、私はただ怖いだけだ
自分の意見とかやりたいことと、やりたくないこと、疲れたとかそういうネガティブな話をして二人に否定されることが
『友達』とか『同じバンド』とかそういう肩書や居場所を失くすのが怖い
だから自分のマイナスな考えを誰かの為にしているんだ
「無理はしてないよ…」
手の中のコップを見つめたまま私は答えた
「そっか… 蓬ちゃんはやさしいね」
「……えと」
言葉が出ない…私がやさしい?
そんなわけない、だって私はせっかく二人と遊べているのにこんなにも最低な考えを抱いていて…
しかもそれを自分可愛さに二人のせいにしてる…
そんな私がやさしいはずないんだ…
「蓬ちゃん、私たちに合わせてくれてるでしょ?」
「あ、いや あわせてもらっているのはこっちのほうで…」
電車の乗り方を教えてもらった、バスの乗り方も教えてもらって、服も選んでくれた
それに手を引いて歩いてくれて…
もうなにもかも全部私なんかの為にしてもらったことだった
「それは違うよ」
「あっ」
思わず目線を上げてしまう
『違う』なんて否定の言葉を綾乃の口から初めて浴びて思わず反応してしまった
綾乃に嫌われたくない… そう思ったから
でも視線を合わせた綾乃の目はどこかやさしそうで…
「私たちが蓬ちゃんに合わせてるなんて…それは違うよ だって少なくとも私はそうしたいからしてるだけ 蓬ちゃんに何かしてほしくてやってるんじゃないんだよ」
「えっと…」
「でも私のしたいことが蓬ちゃんにとっては嫌なことかもしれない… 蓬ちゃんのこと、まだちゃんと分かってないから間違ってるかもしれない。 でも蓬ちゃんはそれが嫌とかしたくないとか言わないで付き合ってくれてるでしょ? それができる人ってそうそういなんだよ」
言葉を口に入れる
言葉を租借してその意味を理解する
理解したその意味を飲み込んで消化する
だんだんと胸の奥が熱くなった
これは肯定ではなく否定だ
でも嫌じゃない… というよりも少しだけ救われたような気がした
「えと ありがとう…」
「あ、いや ごめんね なんか急にこんなこと言って… でもなんとなくちゃんと伝えなきゃって思ってさ」
「えと」
綾乃が私に伝えようとしたこと…
はっきりとは分からなかったけどでも伝わった… 気がした
手元のブザーが鳴る…
注文した料理が出来上がったようだった
「あ、ちょっともらってきます…」
「うん いってらっしゃい」
席に戻ると綾乃の代わりに真凛が座っていた
真凛はサンドイッチ?(サブウェイっていうらしい)を選んだようだった
「あ、蓬も無事に買ってこれたみたいだね」
「あ、うん お待たせしました」
「綾乃はアタシと入れ違いで受け取りにいったよー もうすぐ来ると思う」
綾乃がなにを選んだかわからないけどタイミングがちょうどよくズレてよかった…
「蓬はうどんなんだー」
「ああ、うん」
「ていうか少なくない? 大丈夫?」
「まあいつもこんな感じだから…」
私のお皿にはかけうどんが並盛で一杯と磯部揚げが一つだけ
いつもより少し少ないけど元から小食の私にはこれぐらいでちょうどよかった
「まあ食べれる量は人それぞれだけどちゃんと食べなとダメだよ」
「う、うん ごめん…」
「あ、別に責めてるわけじゃなんだけどね」
また変に気を遣わせてしまった…
ちょうどそこに綾乃が戻って来た
「二人ともおまたせ~」
綾乃はドーナツとパイを買ってきたらしい
なんか二人とも選んでる料理がオシャレな気がする…
これが女子力の差か…
「それじゃあみんな揃ったし食べよっか」
「だねー」
「あ、はい」
綾乃が席に着いたタイミングで真凛が声をかけ、食べ始める
周りに人が多くて少し落ち着かなかったけどうどんはおいしかった
食事しながら会話をするなんてコミュ障には難易度が高すぎでは!?と身構えていたけど
私の想像に反して料理の感想はいいつつもそこまで会話は生まれなかった
ごはんは黙々と食べたい派だったのでありがたかった…
「学校でもこうして三人で食べたいよねー」
「あ、それいいかも!」
「えと…」
真凛が唐突に提案する
学校でもこうして三人でごはんを食べる… ぼっちを回避できる…
「なんか混んできたねー みんな食べ終わったみたいだしいこっか」
たしかに来たときよりも人が多い気がする…
学校でも三人でごはんを食べる…
その答えが決まらないうちに私たちはフードコートからいどうすることになった




