第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第七節
あの時、書いた小説はいったい誰に届いたんだろう
お会計を終わらせてからお店の外にあるベンチに座った
家族からの電話に出るため離れた真凛とは、ここで待ち合わせだ
「蓬ちゃんってさ 中学校の頃はどんな感じだったの?」
「あ、えと…」
綾乃からの思わぬ不意打ちに凍り付いた…
中学の頃の自分… 思い出すだけで死にたくなる…
特に今と変わらずコミュ障陰キャぼっちだったけどそれ以上にあの頃は…
いじめ、孤立、そして三年生の文化祭…とにかくこれだけは知られてはいけない
「今と同じ…かな」
「そうなんだ… 中学校の友達とかいないの?」
「ああ うん いない…かな…」
さっき真凛にも聞かれた質問だ
正確には中学の頃の友達は一人だけいる…いた
保健室に通いがちだった頃に知り合った名前も知らない友達…
友達と呼んでいいのかも分かんないけど…
「ほんとにいないの? 文化祭とかで知り合った他校の子とか…」
「……うん」
やはり『文化祭』というワードがトラウマになってる
けど綾乃に言われて思い出した
中学三年生の文化祭、『あの事件』が起きる少し前に出会った少女のこと…
顔はよく覚えてないけど車椅子に乗った女の子と話をしたんだっけ
たしか私が文芸部で書いた小説とか詩集を褒めてくれて…
「まあ…そうだよね…」
どこか寂しげに綾乃は俯いた
「え、あ ごめん 大丈夫?」
「ああ うん 大丈夫だよ 変なこと聞いてごめんね…」
こういう時、なんて言ったらいいのかわからない
とりあえず反射的に謝ってしまうけどそれも間違いなんだろうな…
なんとか話題を変えないと…
「ところで綾乃は中学の頃、部活とかしてたの?」
誰かに質問なんて滅多にしないから思わず早口になってしまった
「私は何もしてなかったなー 蓬ちゃんは?」
「えと 文芸部だった…よ」
「そーなんだ どうして文芸部だったの?」
質問返し(カウンター)を決められつつも表情が明るくなって良かったと思った
でも文芸部に入っていた理由か…
「えと 私って身体が弱くて 運動部とかは制限があったんだけどね…」
「うん」
「それで 中学は部活への入部が強制だったからかろうじて入れた文芸部に…」
「そうなんだ でも料理部とか手芸部とかはなかったの?」
「料理部とかはあったけど そこまで積極的に参加するつもりなかったから… だから週に三回ぐらいの文芸部にした…かな」
適度に相づちを入れて話の途中、きりがいいところで質問をする
コミュニケーション強者の立ち回りだけど綾乃の話の聞き方は話題が途切れることがなくてすごく話しやすかった
隣に座って無理に目線を合わせないでくれるのも助かる…
「なるほどね~ どんなことしてたの?」
「本を読んだり あとは一応、小説とか詩集を作ったりかな」
図書室で本を読むだけ、そんなイメージで入ったのに八割幽霊部員の部活で真面目に毎回参加したせいで小説や詩まで書くことになったのだ
しかもまともな部員がいないとかで部長までやらされるし…
「小説! すごいじゃん!」
「いや、そんなことは コンクールとかにも出してすらいないし…」
「でも小説書けるなんてすごいよ! それに詩も」
「えと ありがとう…」
純粋に褒められて少しうれしかった
けどその小説が当時の顧問の先生に絶賛されて、あれよあれよという間に文化祭で小説の内容を発表することになり…
そのせいで顔も名前もわからない『だれか』の反感をかって『あの事件』にまで発展した
だから
「でも、もう小説は書かないかな…」
「そうなの?」
「うん まあ、もう文芸部じゃないからね…」
「そっかー」
どこか残念そうに綾乃が言った
「いつかまた…」
「ん?」
綾乃がなにか言いかけた気がしたけど気のせいだったらしい
「二人ともおまたせー 遅くなってごめんね」
私たちのところへ真凛が戻ってきた




