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第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第五節

君が言った言葉を思い出す…


たとえそれが余計なお世話だったとしても

綾乃がいるのは私たちがいたお店とは反対の場所にあるお店だった

場所だけじゃなく雰囲気も対象的で落ち着いた大人な感じがした

「蓬の希望とは少し違うかもだけど、たぶんここなら良い服があるよ」

「えと… それって…」

「さっきのお店だと明るい感じだけど子供っぽかったでしょ? でもここならさっきより少し落ち着いた雰囲気だけど大人っぽさもあって蓬に似合うと思ったんだよね」

なるほどたしかに… 

ファッションのことは素人だけど言われてることは理にかなってると思う…

「だからもう少しだけ付き合ってくれないかな?」

「あ、いえ こちらこそお願いします…」

私なんかのために真凛が考えてくれたんだ、もう少しだけ彼女の厚意に甘えようと思った


「あ、二人とも見つけた~ おーい」

中に入ろうとしたら綾乃に呼び止められた

「お、綾乃じゃん よかったまだいてくれたんだね」

「まあ二人ともこっちに来るって連絡もらったからね 蓬ちゃんの服選びに来たんでしょ?」

「そうそう さっきのお店だといまいちでさ よかったら綾乃も選んでくれない?」

え、まさか綾乃まで私の服選びに付き合わせるの!? 

さすがにそれは申し訳ない…

なんて心の声がそのまま言えるわけもなく…

「えと その 無理に綾乃まで付き合わなくても…」

「え~ 楽しそうじゃん 蓬ちゃんが嫌じゃなかったら私も一緒に選びたいな…」

「あ、いや 嫌というわけではなくて…」

綾乃に正面から見つめられてまともに返事ができない…

真凛とは違った陽のオーラがする…

「じゃ決まりだね 綾乃とアタシで選ぶから蓬はまた試着お願いね」

「うう… うん…」

「それじゃあ早速、あっちから見てみない? さっき一人で見てた時、蓬ちゃんに似合いそうな服、見つけたんだ~」

「え、マジ!? いこいこ!」

すごい… 私と二人で見てるときより真凛が活き活きしている…

これが陽キャ同士の相乗効果…

なんだか自分がいるのが場違いな気がしてきた…


三十分後…二人はカゴの中いっぱいの洋服を持ってきた…(怖)

「またせてごめんねー 選んでるうちに綾乃と盛り上がっちゃってさー」

「真凛のセンスがよかったからね~ 私も勉強になったよ~」

陽キャオーラが更に増している…

まぶしい…


「早速だけど、試着お願いね」

「あ、はい…」


 さっきのお店と同様に試着室に入る…

今回も比較的空いていたからすぐに入ることができた

綾乃と真凛から手渡される服に着替える

「えと… 着ました…」

そう二人に告げてカーテンを開けた…

「おおー」

「うん さっきより良い感じだね」

綾乃の驚いたような声と真凛の賞賛が聞こえた…

渡された服はさっきと同じワンピース… (ワンピースしかきてないような…)

でもさっきと違って淡い黄色系の色合いで特に柄もないシンプルなデザインだった

落ち着いた感じの服で私には似合わなそうだったけど試着室の鏡をみて驚く

「え、ほんとに私?」

「すごい すごい やっぱりぴったりだね~」

綾乃にまじまじと見られて少し恥ずかしいけどこの恰好なら悪くないかなとも思った…

値段もお手頃だし買っちゃおうかな…


「じゃあ次はこっちね」

そう言って真凛は次の服を渡してきた…

「ああ はい…」

手渡された服に着替えてカーテンを開ける

「こっちもいいね」

「うーん でもこれなら下はスカートのほうがいいかもね」

綾乃と真凛が交互に感想を口にする

そのあとも何着も試着を繰り返した

綾乃はどの服もかわいいと言って褒めてくれるけど真凛は辛口だった

もっとも服に対する評価がであって私の容姿はむしろ褒めてくれたりもした…

きっとファッションに対して真剣に向き合ってるんだろうな

自分が考えるコーディネートに対して妥協がないというか…

そうこう繰り返している間に最後の服になった


「お疲れー これで最後だからもうちょっとお願いね」

「あ、はい…」

「最後のはちょっと攻めてるから まあ頑張ってみて」

「えと… 分かりました…」

攻めているとはどういうことだろう…

手渡された服を着て気が付いた

ぱっと見はオシャレなドレス風の服だけど胸元が大きく開いていた…

え!?

さすがに攻め過ぎでは!?


私の場合、高校生になっても胸がなさ過ぎて胸元はぶかぶかだった

しかもそのせいで下着が見えそうだし…

二人の前に出る前に鏡を見返した

弟の若菜からまな板呼ばわりされるだけのことはある…

ほんとに薄い…


いや問題はそこじゃなかった

胸元の傷… 幼いころに心臓の病気、その根治手術の傷跡がモロ見えだった…

胸元には一直線に十五センチぐらいの傷がある

そして背中にも自分では見えないけど真一文字に十センチぐらいの傷があるらしい

背中側にもスリットが入っていてたぶんこっちも見えてしまう…

そもそも二人には病気のこと言ってなかったしここで気づかれるのもな…


「蓬、どんな感じ?」

「あ、えと 少し恥ずかしい…かな」

恥ずかしいから見せられないでなんとか切り抜けよう…

「えーでも ちょっとはみたいなー ちょっとだけ」

真凛は引き下がってくれそうになかった…

しょうがない もうこうなったら傷跡のことで何か聞かれるのは諦めよう…

今までだってプールの着替えとか、林間合宿や修学旅行のお風呂で何度も聞かれたし…

そのたびにいい気分はしなかったけど

『人とは違う』それを表すマークみたいなものだから…


「あ、そろそろ混んできたから出たほうがいいかもよ 他のお客さんも並び始めたし…」

「え、ああ ほんとだ じゃあ蓬、悪いけど試着はこれでおしまいで」

「あ、うん…」

万事休す…かと思ったら綾乃からの助け船でなんとか切り抜けた…

本当に一生消せないこの傷跡にうんざりする…

みんなと違う、傷ものの身体…

胸がないからこそ目立つ長い線…

病気に勝った証なんて小さいころは言われたけどそんな良いものじゃなかった

手術しても治らない病気の子もいる…

自分は恵まれた環境にいる…

そんなこと私だって分かってるつもりだ

病気を治してもらった代償なんだからほんとはそんなこと思っちゃいけないんだけど…

でもこの傷跡がなければ

「さっきの服も着れたのかな…」

誰にも聞こえないくらいの声で呟いた…

ふだんなら絶対に口にしないそんなことを言ってしまうくらいにはあの服は魅力的だった


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