第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか 第三節
たとえ君が覚えていなくても私は君を知っている…
「あ、綾乃ー こっちこっちー」
真凛が手を振って綾乃を呼んだ
「おはよー」
「おはよう 二人とも」
「あ、おはようございます…」
私と真凛が座っている席に近づいた綾乃と挨拶を交わした
綾乃の服は全体的に白っぽくまとまっていて清楚系な感じがした。
長い黒髪と対照的な色合いだけどシンプルなのによく目立つ…
たぶん綾乃がクラスのなかでも一段格上の整った顔立ちと容姿の持ち主だからだろう
そして真凛と一緒ですごくいいにおいがする…
「えと じゃあ私はこっちに座るね」
そう言って綾乃は私の隣に座った… なぜ!?
「狭くなっちゃうけど…ごめんね」
「あ、いえ 全然そんな…」
たいして狭くなったわけじゃない…
けど今までで一番距離が近い気がしてなんだか緊張する…
少し振り向くだけで綾乃の顔が側にある
「なになに? 蓬ってばなんか赤くなってない?」
「いや… そんなことは…」
まあ確かに顔の周りがすごい熱いけど…
たぶん暖房が効いてるせいだろう
「大丈夫?」
「あ、ほんとに大丈夫なので…」
綾乃にまで心配されてしまった
「それならいいんだけど…」
「ところで蓬にも聞いたんだけど綾乃はどこか行きたいとことかある?」
真凛が綾乃に尋ねた
私も聞かれたことだけど綾乃はどうなんだろう…
どこか行きたいところとかあるのかな…
「私は特にないかな~ 二人の行きたいところについて行く感じ」
「そっか 一応、洋服見たり、楽器屋さん行きたいねーって蓬とは話してたかな」
「そうなんだ 洋服は私も夏服買っておきたいし楽器屋さんも気になるかな」
夏服ってみんなこの時期に買うのかな?
女子力が低すぎてそんなことも分からなかった
「目的地までどれくらいだっけ?」
「電車はあと五駅さきだからだいたいニ十分くらいかなー そのあとバスで十分くらい移動する予定」
綾乃が真凛に聞いてそれに真凛が答える…
コミュ障特有の三人以上のグループだと存在感が消えるアレだ
二人が話している間に上手く入れない…
まあこれはこれで楽で良い気もするけど
「ねえねえ蓬ちゃんはお昼ごはんなにがいい?」
「蓬ちゃん!?」
「え、ああうん なんとなく蓬ちゃんはそう呼んだほうがあってる気がして… 嫌だった?」
「あ、いえ 驚いただけで…」
名前にちゃん付けなんていつぶりだろう…
なんかすごく新鮮な感じがした
「確かに蓬はちゃん付けが似合いそうだよね」
「真凛もそうする?」
「へ?」
綾乃でさえこそばゆいのに真凛にまでちゃん付けされたら… なんか危ない気がする
「アタシはそのままかなー」
命びろいした…
「そうそうさっきも綾乃が聞いてたけどお昼ごはんどうする?」
「あ、えと 私は なんでも大丈夫… かな」
答えとしては最悪だ ここでなにか具体的な意見を挙げるべきなんだ…
それが分かっているのに自分の意見が否定されるのが怖くて曖昧な返事をした
「そっかー 綾乃も特にないらしいし… フードコートあるからそこに行ってみよっか」
それでも真凛は私の曖昧な返事を否定することなく話を進めてくれた
「だね~ 私、フードコート行ったことないから気になってたんだ~」
「あ、私も… 初めて」
真凛の提案のおかげでお昼ごはんは無事に決まった。
そいえば中学の頃、保健室で知り合ったあの子も『蓬ちゃん』って呼んでくれてたな
なんて少しだけ感傷的になったり…
ダメだ ちゃんと楽しそうにしないと…
今日はせっかく二人が一緒に遊んでくれてるんだからもっとちゃんと楽しまないと
「蓬?」
「へ?」
「もうすぐ駅に着くけど、大丈夫?」
私の正面に座った真凛が心配そうにこちらを見つめた…
「えと、ああ うん 大丈夫…」
「ならいいんだけど・・・ もしなにかあったら言ってね?」
「ごめん…」
それからまもなく目的地の駅に着いた
「やっと着いたね~」
「うーん 意外と長かったかなー 蓬は大丈夫? 疲れてない?」
「あ、ああ うん 大丈夫…」
電車に乗っていた時間は三十分くらい いつもの通学よりも長かったけどちゃんと座れたからそこまで疲労感はなかった
むしろ二人との会話についていくのに必死でそっちのほうが疲れたかも…
いや、誘っておいてもらってそんなこというの失礼でしかないけど…
ほんと反省しないと…
降りた駅は中に色々なお店が入っているような大きな駅で出入口が二つもあった
土曜日とはいえ人が多くて新幹線も停まるからか観光客みたいな人も多い
「とりあえずバス乗り場は東口だからこっちだよー」
「はーい」
「わ、分かりました…」
なんどか来たことがあるらしい真凛に案内されてバス乗り場のある東口に向かった
何度もお店の前を通ったり階段を降りたり… とにかく広い
歩いた時間は五分もかかってないけど人が多いし入り組んでて迷子にならないように必死でなんだかそれだけで疲れた
「てことでここがバス停ね ふたりとも小銭はある? Suicaでもいいけど、なかったらどっかで用意したほうがいいかも」
「私は合流する前にコンビニで崩してきたきたから大丈夫だよ」
「私も、一応Suicaは持ってるので…」
ほんとは必要なかったけど弟が電車通学で使うから発行してもらうときに私の分も作っておいたのだ(もっとも桜水高校の最寄り駅は未だにSuicaが使えないんだけど…)
「二人とも準備万端だね! じゃあもうすぐ出発するのあるからそれに乗ろっか」
そう言われて私たちは停車していたバスに乗った
初めてのバスは緊張したけど乗り方と降り方は真凛があらかじめ教えてくれてたからそこまで戸惑わなくてよかった
バスの中はそこそこ人が多くて座れそうになく十分くらいで到着するから立っていることにした
すぐにバスは出発して途中で何ヶ所かバス停に停まってから目的地に着いた
バスの中はなにか静かでそこまで会話はなく立ちぱなしだったけど電車の時より疲れなかった
ショッピングモールのすぐ前のバス停で降りてそのまま目的地へ向かう
そして…
「ここが本日の目的地になりまーす」
いつも行く大型のスーパーが三個分ぐらいあるような巨大な建物を指さして言った…
「大きい……」
私と綾乃は同じ感想を呟いた…




