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第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第二節

あのとき、少しだけ胸が傷んだのはきっと…

切符を買って、改札を通りホームへと進む

いつもと乗る駅が違うだけでかなり緊張した。

普段、乗る駅は無人駅で降りる駅は駅員さんが切符や定期券を確認する方式になっている。

だからこんなふうに改札に切符を通すのなんて幼い頃以来で、ましてや一人で来ることもなかった…

切符を買うことすら不慣れな私に、真凛は丁寧に教えてくれて…

いつもは陽キャで近づきにくいと思ってたけどどこかお姉さんみたいで安心感があった

「お姉ちゃんがいたらこんなふうに出かけたりしてたのかな…」

「なになに? 蓬ってお姉ちゃんが欲しかったりするの?」

「あ、いや そうじゃないけど…」

たしかに上に兄姉きょうだいがいたらって考えたこともあったけど、今は自分が一番上で良かったと思う…

もし兄姉がいたらきっと私が生まれたせいで迷惑をかけたから…

もしかしたらその場合は私が病気じゃなかったかもだけどでも、兄姉だろうと弟妹だろうと病気を持ってたのが私で良かったとも思う…


「そういえば 蓬って一人っ子?」

「えと、あ 弟がいる…よ」

途中から余計なことを考えたせいで表情が暗くなってた(たぶん)せっかくのデート?なんだちゃんと楽しそうにしないと

「へー 意外… てっきり一人かと思ってた」

「そんなに『ぼっち』ぽかったかな…」

「あ、ごめんね そーゆーんじゃないんだけど なんとなく?」

顔の前で手を合わせて謝られた

「え、あ、 すみません… ところで真凛は?」

「アタシ!? ああまあウチも弟が一人… めっちゃ生意気だけど…」

「うちと一緒だ…」

思わず声が漏れた… 人様の弟さんとうちの弟を一緒にして申し訳ない…

「マジ!? え、じゃあなに中学の問題で躓いてるとマウント取ったりするの?」

「あー まあかろうじて中学の問題は解けるからそれはないけど… 学校帰りにパシらされたりとか 友達がいないことをバカにされたりとか 部屋から勝手に本を持ってかれたりとか… 返って来ないし…」

『隣の芝生は青く見える』なんていうけど自分の弟のほうがよっぽどひどく見えて、今までされた悪行を羅列した。

「他にもゲームで負けると威張られたり…」

「蓬ってもしかして弟くんのこと好きなの?」

「へ?」

弟が好きか? もちろん恋愛や性愛とではなく家族愛としてのことだろう…

でも私は若菜に家族愛のような感情は抱かなかった

どちらかというと劣等感とか私と違ってなんでもできる若菜には幸せであってほしい的な


「なんとなくだけど 蓬って弟のこと話してたときが一番、生き生きしてたからさ」

「そうかな… 普段話さないだけで実際はもう少し明るいんだよ…私」


 普段みたいに明るくふるまう… 

家の中でしか見せない自分…

ある意味、中学の頃からそうした態度は素の感情であり家族に心配をかけないための仮面でもあった…

同じ仮面なら学校でもかぶれるはず…

そう思っていわゆる高校デビューも目指したけどダメだった…

見た目が多少明るくなったぐらいじゃ今までうちで被っていた仮面を外でまで被れるようになるわけじゃない

だから……


 電車が停まる 中から人が降りてくる

「あの電車だね 行こ!」

「あ、うん…」

真凛に手を引かれて電車に乗った 

なんか手を握られてばかりな気がする…

嫌じゃないけどなんだか… 今まで友達と遊びに行くなんて一度もなかったけどこんなふうに手を握るのが普通なのかな? 

言葉では上手く表せないけど温かい、他人の手で触れられるだけでこんなにも安心するのかと思う

直前まで頭から離れなかった嫌な考えや感情が霧が晴れるみたいに去っていって…

落ち着く…

落ち着いてるのに心拍数は確かに上がっていて…

変な感じ…


 ちょうど四人席が空いていたから向かいあってそこに座った

電車の扉はすぐに閉まって出発する。

「ところで 蓬はなにが好きなの?」

「えと まあ本を読んだりとか…」

「あ、いつも読んでるよね~ 難しそうなやつ」

好きなこと… 学校でアニオタを隠しているコミュ障陰キャぼっちにはハードな質問

下手を打てばオタバレしかねない…

「どんな本読んでるの?」

きた! この質問、ここで間違っても漫画とかラノベとか言ってはいけない…

一発でオタバレしかねない… かといってこの後に来るであろう本の感想に答えるためにも読んだことのない本は挙げられない…

「えと1925 とか…」

伝家の宝刀である…

そもそも文学としては完璧だがその難解なストーリーと人間模様から所詮、人生経験に乏しい小娘が読んでもまともに理解できない作品…


「あ、あれねー なんかムズイよね~」

「読んだことあるの?」

「まあちょっとだけ… わかんなすぎてやめたけど」

ここにも愚かな小娘がいたとは 

「他には?」

「あ、あとは『哀の花』とか…」

これに関してはほんとよくわからない…

中学のころ文芸部の先輩が読んでいた本だけど原文(たぶん英語?)だったから内容自体が分からなかった

「それは知らないな~ どんな本なの?」

「えと 詩集みたいな本で 人の醜さを謳っているような… 説明しにくい本かな…」

頭のなかを探し回ってなんとかそれっぽい情報を見つけた…

「なるほど… 結構、難しい本を富むんだ~」

「あ、はい まあ」

後半かなり苦し紛れみたいになってた…

流石はコミュ強陽キャリア充の小林さん…

強すぎる…


 そんな話をしている間に電車は次の駅に停まった

綾乃と合流するまであと二駅…

「ところで今日はどこに行くの? …ですか?」

また敬語になった…

「今日は、ショッピングモールに行く予定だよ」

「そうなんだ…」

ショッピングモール… 人が多そうだな…

「蓬はどこに行きたいとかある? 買いたいものとか」

「行きたい場所は特にない…かな… 欲しいものは… 洋服が少し見たい…かも」

「あ、服ね! 私も夏服見たいんだよねー」

夏服… 服装に季節感あるのすごいな… 

私なんて長袖か半袖ぐらいしか違いがない…

「あとは楽器屋さんも見てみないとね!」

「えっと…」

「蓬のギター、今日じゃなくてもそのうち買うでしょ?」

「まあ はい…」

勢いで音楽部に入ったけどギターを買わないといけないこと忘れてた…

一応、お母さんからは許可もらえたけど…

『むしろギターくらい必要経費でしょ』とまで言われたけど…

ギターの値段とか分からないし、楽器屋さん行くのもちょっと怖い…

「まあ、そんな心配しなくて大丈夫だよ 一応、行きつけのとこだし」

「そうなの?」

行きつけの楽器屋さん… なんかいいな…

私にもできるかな… 行きつけの楽器屋さん…


「アタシ中学の頃、吹奏楽部だったからさ その時からお世話になってるところ」

「そうなんだ…」

一瞬、真凛の口から中学の頃の話がでてきて戸惑った…

あの頃のこと… 

中学三年生のときの文化祭… 

もしあの時のことを真凛が知っていたらと思うと怖かった…

だから未だに私は同じ中学だったことを話せていない…

なんか、隠してるみたいで罪悪感がすごい…

いつかちゃんと話さないとな…


「ところで蓬ってほんとに中学の頃友達いなかったの?」

「へ?」

「いや、なんかやたら自分のことぼっち扱いしてるからさ…」

しまった… 

高校デビューはできなくても陽キャっぽくなれるようにしてたのに…

悲観的な自己評価を口にしてたせいでぼっちだと思われてる…(事実)

「えと、まあ はい…」

「ふーん ほんとに?」

ほんとに!? もしかして『ぼっちだったこと』を疑われてる?

だとしたら少しは陽キャに見えてるのかな…

「保健室で知り合った友達とか… いない?」

保健室登校してたと思われてた…

まあそんな時期もあったけどさ…

「いない…かな…」

違う、ほんとは一人だけ保健室で知り合った子がいたんだ

まあお互い、ベッドのパーテーションで区切られたセカイで話していたし…

顔も名前も分からない…

ただ学年が同じ女の子だってことしか知らなかった…

そんな子を私なんかが『友達』って呼んでいいはずもなく…

「そっか・・・」

少しだけ寂しそうな声で真凛が呟いた

……少しだけ沈黙

私は沈黙が気にならないタイプだけどさっきまで息つく間もなく話しかけてくれてた真凛が黙ってしまって少し不安になった…


なにか話そうか、なにも思いつかないけど必死に話題を探す…

何も話題が見つからないまま次の駅に着いた

そこで気が付く…

話すのに夢中で一駅分、忘れていたことに・・・

この駅で綾乃と合流する

電車の扉が開き何人かの人が乗車する

そのなかに見慣れた人物を見つけて…



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