第二章 コミュ障陰キャぼっちでもバンドは組めますか? 第一節
この時の感情にどんな名前をつけたらいいかわからない
もしかしたら始めから分かっていたかもしれない…
けれど私はそのことに気づかないふりをしたんだ…
スマホのアラームで目が覚める
昨日は疲れすぎてたせいか夢を見なかった。
半ば過去のトラウマのフラッシュバックにも近い夢… だからこそ見なくて良いに越したことはない。
特に今日は……
「ダブルデート……」
昨日の帰り際、真凛さんに言われたことを思い出す。
いや真凛か… 呼び捨てとタメ口で話すように言われたんだ
これから一緒にバンドをしてもらう以上、グループで浮くわけにはいかない
ただでさえ空気が読めないんだからちゃんとしないと…
心の中でそう自分に言い聞かせる…
でもどこか初めて誰かと遊びに行くことに少しだけ浮かれていた
集合時間の二十分前に駅に着いた
ここで真凛と待ち合わせ、綾乃とは三駅先で合流する。
服は若菜のクラスの子に選んでもらったワンピースにした
やたら黒っぽい服ばかりの私のクローゼットにあった唯一の水色…
『ライトブルー』っていうらしい よくわからないけど…
お母さんが買って来てくれたけどスカートが短くて着なかった服…
『お姉さん足、細いしすっごい全体的に細いから大丈夫ですよ!』とは服を選んでくれた斎藤さんの言葉だ
昨日は浮かれてた上に弟のクラスメート(たぶんカーストトップの子)から褒められて調子に乗ってしまった
まさかせっかく選んでもらった服を着ていかないわけにもいかずそのまま出てきたけど一度、冷静になってみると恥ずかしいなこれ
制服も頑張ってスカート丈を短くしたけどさ これって下手したらそれ以上に短くない?
やっぱり高校生にもなったんだし服ぐらい自分で買わないとかな
なんてことを考えてたその時だった
「あ、よもぎ~」
手を大きく振りながら真凛がやってきた
いかにもギャルっぽい(お腹周りがチラ見えするような)服に私と同じくらい短いスカート、ピアスも付けてていかにもオシャレ女子って感じがした…
ていうかスタイル良いな!? それにいつもよりいいにおいするし… 香水かな?
「おはよ! てか早いね まだ十五分前だよ?」
「え、あ おはようございます… 真凛…さんを待たせるわけにはいかないので…」
「まーた敬語にさん付けになってるよ… それに私のこと待たせたってちゃんと電車に乗れればそれで良いのに…」
「あ、でも その 私こういうの初めてなので… 電車とか分かってる人と乗らないと怖いし…」
普段、電車通学とはいえ行ったことのないところまで行くのは怖い…
それに今日は土曜日で人も多いだろうし…
私が目を伏せていると真凛がこちらを覗いてきた
「でも私が居ても大して役に立たないかもよ?」
「そんなこと! ない…です…」
思わず叫ぶみたいに声を出してしまってまた俯いた…
コミュ障は声の音量調整が苦手なのだ
「どうして?」
真凛はほんとに分からないみたいに首を傾げて聞いてきた
『どうして』と言われても… 私にもうまく言えない… でも
「真凛…は 明るくて人と関わるのが上手で… 私が一人じゃ行けないようなところにだって行けるし、私が…できないこともできる…から… だから 真凛と一緒なら安心する」
ってなに言ってんだよ私!? なんか流れでめちゃくちゃハズイこと言ってない!?
マンガの台詞か!? アニメの見過ぎかよ!?
ほんとこれだからコミュ障は… いざって時に自分で言葉にできないからこうやって黒歴史を増産するんだ…
きっと真凛も『うわ なにこいつ…アニオタかなんかなの? 中二病とか高校入る前に治して来いよ……」とか思われてるんだ…
まだ集合時刻の十分前、まだ始まってすらいないのにこれだ
自分の語彙力と柔軟性の無さに失望して蹲ろうとする。
このままアスファルトの亀裂がどこまで続くのか想像していたい…
そんな中学時代みたいな真っ黒な感情でいるとふと真凛が視界に入った…
「そっか… なんか… ありがとう…」
あ、詰んだ
若菜…お姉ちゃんもしかすると今日はこのまま自分探しの旅に出るかもしれない…
(探さないでください…)
「とにかく! 早いとこ切符買っていこ!」
真凛はそういうと突然、私の手を引いて行ったのだった
その手はどこか暖かくて
これから始まる出来事がちょっとは良いことのような
そんな気がした…




