第一章二千十八年の君へ 第十二節
「いや その なんていうか…悪かったな…」
私に向き直って竹本先輩が謝ってくれた
「あ、いえ その 完全に私の不注意ですし…」
「いや、惠が悪いでしょ まさか色まで呟くとか…デリカシーなさすぎ」
「デリカシーないのはお前だろ 見てみろよ、蚊帳ノまた赤くなってるぞ」
双葉先輩の(余計な?)フォローのおかげで私の心は崩壊寸前だった…
「え、あ、ごめん 蚊帳ノちゃん…」
「てかお前、男子ならともかく女子に足組ませる時は注意しろって言っただろ 去年だって先輩の説明不足でお前と恋がパンツ丸出しで…」
「ちょ、待ってよ惠、なに余計なこと言ってんの!?」
よかったどうやらやらかしたのは私だけじゃなかったらしい
いや良くないけどね!?
「まああの時の恋のパンツは今でもおぼえてるわ あのあと先輩に指摘されて驚いた恋が後ろにひっくり返ったから私も見れたし…」
「え、どんなのだったんですか?」
この流れで先輩の過去の過ちを掘り返しつつパンツの色まで聞ける小林さん・・・強い
「もちろん真っ白な・・・」
「ちがうもん 黒だよ! レースのついた! てそうじゃなくてなに言わせてんの!?」
ノリツッコミ・・・
「まあ年中発情期のバカップルは放っておくとして…」
「改めて 俺は二年の竹本惠だ 一応、小林は知ってると思うが女だから」
「え?」
「へ?」
綾乃さんと声がハモった
「そうなんですか!?」
「ああ 一応な」
まさか女性とは… たしかに話してて威圧感とか緊張感は感じないけど
「だからまあ蚊帳ノもさっきのことは気にしないでもらえると助かる…」
「あ、いえ それはもうもちろん…」
流石に女性相手でもスカートの中を見られたのは精神的ダメージは大きいけど男子に見られてバカにされるよりマシかと思った (バカにされるようなのじゃないけどね!)
「でもそのスラックスの最奥にあるかないかは分からない… シュレディンガー」
「ここにも年中発情期が…」
いままで会話に混ざろうとしなかった梅田先輩が気がつくとすぐそばに立っていた
「それより惠… なにか話があって来たんじゃないの?」
「ああ そうだ おいそこのバカップル」
竹本先輩が言い争い(漫才)を続ける二人を呼んできた
「恋、いいのか?」
「なにが?」
「一応、体験入部は禁止だろ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
沈黙が流れたあと唐突に蓮見先輩の顔が真っ青になった
「え、ヤバい どうしよ バレたら廃部じゃない!?」
「だから忠告に来たんだよ…」
「えっ えーとごめん一年生のみんなせっかく来てもらったけど今日はこれでおしまいでもいいでしょうか?」
蓮見先輩は手を合わせた後、深々と頭を下げた
なぜこんな状況になったか分からず私はあたふたするしかなく……
「大丈夫ですよ 私達も急に来てしまったので……」
綾乃さんがすかさず声を上げてくれた(神)
「小林も悪かったな 昨日、話したあとで急に体験入部できなくなってな 連絡するのも忘れてた」
「全然、気にしないでください」
あれ? これなんか私も言ったほうがいいやつかな
でもなんか帰る(帰れる)方向で話が進んでるし普通にしゃべるタイミング逃してない?
「でもあの生徒会が音楽室に出入りする一年を見てないとも限らない…」
双葉先輩が話し始めた
「え、バレてるかもってこと?」
「まあ 昨日の今日だし 私たち、生徒会にとってはただでさえ信用がなくて目障りな存在だからマークされてるリスクは大きいわね 向こうには三年もいるから私たちが集会で遅れてる間にもここで張れるだろうし」
「ど、どうすれば…」
再び蓮見先輩の顔から生気が消えていく…
「なら体験入部じゃなくすればいい」
「どういうこと?」
「この子たちは入部届を出しに来た… 入部すれば体験じゃない…」
「そっか! 部活自体は禁止されてないから!」
梅田先輩の発言に勝機を見出したかのように蓮見先輩は叫んだ
「ねえこのままうちに入部しない?」
「ちょっと恋、それはさすがに強引じゃない?」
「でも廃部になったら元も子もないし…」
このまま流れで音楽部に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
入れるだろうか 入ってもいいんだろうか
「入ります」
誰よりも早く綾乃さんが宣言した・・・
「いいの!?」
「はい もともとこの部活に入るのは決めてたので… 廃部になるくらいなら入ります」
とてもまっすぐに言い切った
すごいな…
「んじゃアタシも入りまーす」
「え!?」
「自分から頼んどいてなんであんたが驚くのよ… 本当にいいの?」
「まあ もう綾乃と蓬ちゃんとバンド組むって決めたし いいかなって」
真凛さんも覚悟はできてたようだ
いまだ決めかねてるのは私一人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「蚊帳ノちゃんはどうする? もちろん、強制はしないわ あなたの意思で決めていいから」
「私の意思・・・」
私に何かを決める力なんてない どうせ入ってもギターが続かないかもしれないし、バンドが組めないかもしれない
なんてただのひねくれた妄想だ
でも誰よりも弱くて 誰よりも臆病で 誰よりも失敗を恐れる私は
たしかな確証が欲しかった
こんな私でもギターが、バンドができるんだって
こんな私でも綾乃みたいに明るくて 真凛みたいにキラキラして 私らしく輝ける
そんな確証が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから
「あ、あの」
息を吸う 息を吐く 頭のなかで言いたいこと 気持ちをカタチにする
「こんな コミュ障で 陰キャで ぼっちな私でも・・・」
息が苦しい 上手く吐き出せない でも この気持ちを 伝えないと…
「こんな私でも ギターが バンドができますか?」
言ってしまった
こんなどうしようもない弱音を 吐き出してしまった
恐る恐る見上げると 蓮見先輩は笑っていた
「なれるよ」
「蚊帳ノちゃんにだってギターはできるし バンドもできる」
「それにね 今までのきみを私はしらない でも 」
「こんなドタバタした 突然の入部なのにもうきみのことをバンドメンバーだって言ってる子たちがいる だからもうきみはぼっちなんかじゃないよ」
振り返るとそこには綾乃や真凛がいて
私は勝手に自分が独りなんだって そう勝手に妄想していたことに気がついた
だから私は 私を必要としてくれる人のために そしてこんな自分を変えるために
「入ります。 私も 音楽部に 入らせてください」
もう一度、蓮見先輩はかすかに笑って
「ようこそ音楽部へ 私たち二年生 いや『PRIVATE LILLIE』はきみたちを歓迎します!」
これは始まりだ
コミュ障で陰キャでぼっちだった私が自分を変えるための物語
そしてなぜか自分を変えるために始めたバンドでまわりの運命すら変えてしまい
気がついた頃には百合展開になっていたそんなお話
こんな(コミュ障陰キャぼっちな)私にだってバンドはできる! と思っていたら百合展開になってた!? (どうしてこうなった!?)
第一章 二千十八年の君へ 〈了〉




