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第一章二千十八年の君へ 第十一節

私には引き返す選択肢なんて始めから用意されていなかった


いや、もう引き返せないところまで来てしまっていたんだ…

開けられた扉から入ってきたのは三人の生徒だった

一人は長身で黒髪の女性、髪は下ろしていて耳にはピアスをつけている

もう一人は小柄で髪の色が明るい女性、腰あたりまで髪が伸びてて前髪が切りそろえられてる

最後の一人髪の長さが肩ぐらいで私ぐらいの身長の女性だった


「あ、お邪魔してます。 竹本先輩に教えてもらって部活始まるまで待たせてもらってました。」

いつもとは違って礼儀正しく真凛さんが状況を説明した

「あ、ああうん 惠から話は聞いてるよ 待たせてごめんね…」


………………沈黙が流れる


「なんか話しなさいよ」

「だって 今日は誰も来ないはずだったからなにも考えてなくて…」

長身の女性と小柄な女の子がなにやら話している

すると「はあ」とためいきをついて小柄な女の子が話し始めた


「ええと 音楽部へようこそ 一年生諸君 私は二年副部長の双葉桜よ。んでそこのでかいのが蓮見恋、そこのむすーとしたのが梅田花音ね」

「ええと蓮見恋です…… 一応、部長してます」

「梅田花音 ピアノ 以上」


かなり雑な気がしたけど三人はそう自己紹介してくれた


「一年の小林真凛です。 キーボード志望で来ました。」

「同じく朝霧綾乃です。 希望パートはボーカルです。」


えっまさかこの流れで行くの!? なんか私の番みたいだけど希望パートまで話すのは…


「蚊帳ノ 蓬です  ……その ギター志望です……」


結局、周りに合わせた 場の空気を乱すわけにはいかない


「りょーかい んじゃ小林さんは花音と朝霧さんは恋とカタノさんは私が担当するから」


あれ?なんかまたカタノになったような…

もしかして私って絶望的に滑舌悪いのかな……


私は双葉先輩に促されるままに教室の奥の大きなスピーカーの側につれてこられた


「あの…」

淡々と話が進んでいき今更だけど逃げるタイミングを逃した(往生際が悪い)

勝手なイメージだけどもっとこう部活の説明とか色々話してからパート毎に分かれると思ってタンだけど……


「ああ なんかごめんね ウチのバンド、基本的にコミュ障の集まりだからさ あんま大人数で話したり部活の説明とかもできるヤツいなくて まあ男子……というか吉田か、アイツがいればもっとわいわいしてたんだろうけど」

「ああ いや その 私もあまり大人数で話すのは苦手なので」

「ふーん まあ確かにそんな感じするわね 小動物的な感じ」


私は双葉先輩と向かい合う形で椅子に座った

「んじゃ改めまして 二年バンドのギター双葉桜です。」

「あ、えと 蚊帳ノ蓬…です。 よろしくお願いします。」

「よろしく ああそこまで緊張しなくていいから」

「あ、はい…」

こうして見ると双葉先輩、私より背が低くくてかわいらしさもあって子役みたい(褒め)

そしてなんか距離近い気がするし…

「蚊帳ノちゃんはギター触ったことある?」

「あ、いえ…… 一応、家に家族のギターありますけどほとんど触ったことないです…」

「へー アコギ? エレキ?」

「たぶんアコギです…」

家族……家族とはあまり言いたくないもう一人の同居人のことを思い浮かべる

「アレ」はもともと音楽が好きでギターやトランペット、フルートになんか大きなリコーダーからハーモニカまで色々と持っていたのだ

「なるほど…… 口で説明するの苦手だから早速、弾いてみよっか」

「へ?」

そういうと双葉先輩はおもむろに立ち上がった

かすかにいいにおいがした

「弾きたいのはエレキで良かった?」

「あ、はい」

「りょーかい」

教室にあるのと同じ机の上、そこに置かれた大きなスピーカーの前に立つ

「まずはアンプの使いかた教えるからちょっとこっち来てくれる?」

「あ、分かりました」

私も双葉先輩の横に並んだ


双葉先輩はスピーカーから出てるコンセントを延長コードに挿し込み戻ってきた

「まずはアンプね これはギターの音を大きくするためのスピーカーみたいなものよ。」

「な、なるほど…」

とりあえずスピーカーではなくアンプと言うらしい

「ウチの部活だとギターはこのBLACKSTARブラックスターってのを使うわ」


「使い方だけどまずここの『ツマミ』を全部0にする」

そういうとアンプの正面についてる丸いパーツをすべて0に合わせた(1~⒑の数字がまわりにかかれていた)

「あ、すみません。メモとかとったほうがいいですよね?」

「え? いやマジメすぎ(笑)体験なんだからそんなのいいわよ。あとでLINEするし」

少し驚いたように笑いながら先輩は続ける

「んで次にここに二つ並んでるスイッチこっちのパワーって方をオンにして2、3分待つ」

「なるほど…」

「隣のスタンバイを同時にオンにすると壊れるから気を付けて」

「分かりました」

同時に点けると壊れる? スタンバイを先にしても壊れるんだろうか? 分からなすぎる

「その間にこれギターにこのシールドっていうケーブルを挿してチューニングしておくの 今日は私がチューニングするわね。」

そういうと双葉先輩はシールドと呼んでたケーブルをアンプとギターに挿し込んだ

どれからポケットから小さな機械を取り出しそのまま弾き始めた

まだアンプから音は出てない ゆっくりと弾きながらなにやらギターの先っぽのほうを弄っていた

「まあこんなもんか なんかペグが微妙だけど仕方ないわね」

「おまたせ そしたらあとは適当にアンプのノブを調節して」



ジャーーーーーーーーーーーーーーーーーーン 


ギターの音が私の耳を貫いた

いやそれだけじゃないピアノの側にいた真凛さんや教室の中央にいた綾乃さんの視線も一瞬だけどこちらに集まった

ただまわりの注目や視線を集めてることよりも

心臓の鼓動を上書きして震わせるような 体中が震えるような音に襲われて


「蚊帳ノちゃん? びっくりした?」

「あ、ああすみません 少し…」

「そう まあこの手順で使えるようになるから」

「あ、はい」


それから私と双葉先輩はギターを持って席に戻った

「今使ってるギターは音楽部の備品になるわ 正式に入部したらギターとベースは個人で楽器を買ってもらうことになるから」

「…あの やっぱりギターって高いんでしょうか?」

いきなりお金の話しもどうかと思ったが学生にとっては大事な話(もし高額なら逃げるいいわけになるかもと思ったり…)

「あ、すみません いきなりこんな」


「構わないわよ というか当然の話だし むしろ楽器の購入を考えるくらいには入部の意思があることが分かって少しホッとしたわ」

アレ? なんか逆効果になってるような…

「ギターの値段はピンキリだけど私としては予算五万円、厳しいなら三万円ね。一応、一万円弱でも買えるけどおすすめはしないわ」

「な、なるほど」

最低三万円…高いな お小遣い半年分ぐらいかな…

「他にも弦やピックみたいな消耗品も都度、必要になるから月に二、三千円は掛かるわね」

更に出費が!? 入る前に分かって良かった…

「他に聞きたいことはある?」

「えと…体力って必要でしょうか?」

「あって越したことはないけど、なくても大丈夫よ」

「分かりました……」

あ、逃げ道がない…… このまま流れで入部コースかな……

「じゃあこっちの番ね」

え、なにが!?

「どうしてギターしたいと思ったの?」

あ、質問する攻守が変わったのか…… いやキツイよ!? ただでさえコミュ障陰キャぼっちなのにこんな高度な会話のやり取り… さっき自分たちもコミュ障だって言ってませんでした? まさかの騙し打ち!? どうしたら……

「その… アニメの影響……です」

「ふーん、まさかとは思うけど『バンゆり』?」

「あ、はい………すみません」

……詰んだ 流石にアニメの影響で始めるとか引かれるよね…… どうもゴミです。社会符適合者です。アニオタですみません…


「誰押し?」

「へ?」

「私は灯だけど」

「えと 私も灯ちゃんが……好きです……」


瞬間、双葉先輩の様子が変わった


「え、まってまってまってマジ!? 『バンゆり』知ってる子がいるの!?」

「あ、えと……」

「いや ウチのバンド連中だれも『バンゆり』知らなくてね、そもそもアニメ見るヤツも少ないし あーー吉田は知ってそうだけど面倒なのよね ほんとは新歓も『バンゆり』の曲やりたかったんだけどなんか恋がよくわからない海外のインディーズバンドの曲推し始めるし… で!で! 蚊帳ノちゃんはどこから入ったのやっぱ三期?」

さっきまでとは別人みたい…でも好きなアニメの話しになるとそうなるよね…(わかる)


「時期的には三期終ってからですけど一応、一期から観てます」


「マジ!? ガチじゃん だいたいあのアニメ、本格的に売れたのが三期からでしょ?しかも三期だけ観てもちゃんと分かるようにストーリー構成されてるから三期しか観てないにわかも多いのよね… そのくせ三期からしか知らないのにキャラのこと分かってるムーブされるのうざいし…」

やばい…めちゃくちゃわかる…


「ああごめんなんか勝手に…」

「えぁ いえそんなことは」

あったけれども…まさかこんなにも同士と巡り合えるとは…

「てことはギターも灯ちゃんと同じのがいいよね?」

「あ、はい できれば…」

「一応、これはストラトタイプって言ってね、灯ちゃんのとはちょっと違うんだけど」

そう言って双葉先輩が持ち上げたのは真っ黒なギターだった

確かに灯ちゃんのギターとは形がだいぶ違う…(気がする)

「灯ちゃんが使ってたのはレスポールタイプって言ってまたこれとは違うタイプになるわ」

「そうなんですね…」

「まああの子のもってるギターは四十万ぐらいするんだけどね…」

双葉先輩は遠い目をしている

まあ私にとっては今世と来世ぐらい違う世界の話しなんだけどね……

(このわずか数年後に六十万円のギターを買うことになるがそれはまたいつか……)

「双葉先輩はどんなギターを使うんですか?」

謎の親近感が沸き、少しだけ話しやすくなった

「私のは何とも言えないかな 形はストラトよりなんだけどピックアップの配列違うし」

「な、なるほど?」

「ほんとは今日、そのまま帰るつもりだったからギター持ってきてないのよね…」

そういえば音楽室に入る時もギターは持ってなかったな…

「まあ月曜日には持って来るわね それより早く弾いてみたくない?」

「あ、えと」

ヤバい 忘れてたけど体験入部なんだからそりゃそうか…

「はい」

「あ、ありがとうございます……」

双葉先輩からギターを手渡された…思ってたより重い

世のギタリストはこんなの振り回してるのか……

「じゃあそこのくぼみを膝に当てて」

「……分かりました」

指示されたとおり右ひざにギターのくぼみみたいなところを乗せた

「ピックはこれね 右手で持つんだけど親指だけたててあとの指は曲げる、そしたら人差し指の第一関節と第二関節の間ぐらいにのせて親指で軽く押さえてみて」

言われた通りに右手の親指を立ててグッジョブの形にする

それから人差し指にピックを乗せて親指を曲げて押さえる

「そう良い感じ ちょっと失礼」


そういうと双葉先輩は私の手に触れてきた

え、手を握られた!? 距離近いし なんか心拍数が上がってるような

「それから左手はこっち、ネックのほうを抑えて……」

後ろに周りこまれて左手を優しく掴まれながら誘導される…

更に心拍数が上がった

双葉先輩、背が私より低いみたいだけどこうして座ってると私より大きく感じるな…

ていうか顔近いし… 

「あ、そっか両足ついてると弾きづらいわね 足組める?」

「え、えと流石に先輩の前で足組むのは失礼では?」

「大丈夫よ そもそも座りながらギター弾くときは片足の高さを上げないと弾きにくいからみんなそうするわ」

「ん、なるほど そういうことなら…

普段、絶対しないけど足を組んだ…そして気が付く

あれ もしかしてこれスカートの中見えそうになってない?

高校生になってクラスで浮かないように若干、スカート丈を短くしたのが裏目に出た…

無論、タイツもスパッツも体操着のハーフパンツも履いてない…

正面ら覗き込んだら見えるよね? 

いやへんなこと考えるのはよそう どーせ女子しかいないんだし


「じゃあこのまま右手で弦を弾いてみて」

「分かりました……」

生まれて初めてギターを弾く 

鼓動が徐々に高まった

右手を振り上げてそのまま下ろす


ジャーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


双葉先輩が鳴らしたのと同じ音が大きく響いた

心臓が鼓動する

身体全体が揺れて熱い……


最高 もっと鳴らしたい もっと自分の音を…… 私は完全にギターに魅入られていた



そんな感情に飲み込まれた直後だった

ガラガラっと音楽室の扉が開く

足音も立てず一人の男性が入って来る ブレザーにスラックス、ギターケースのようなものを背負った彼は立ち止まると私のほうを見据えて言った


「ピンク・・・・・・・・・・・・」


瞬間、まわりの視線が一斉に集まった

そして思い出した 今日、身に着けている下着の色を

目の前にいる男性がだれなのかを・・・・・・・・・・・・


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー¥&%$#%$#&%$$ッ」


もはや途中から声にならない声を上げて蚊帳ノ蓬は赤面した


「え、あ、悪い…」

この自体を引き起こした張本人『竹本惠』彼女はただスカートから目を離そうとはしなかった

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