第一章二千十八年の君へ 第十節
七つの大罪…人が持つ許されざる罪
そのうちの一つを抱いた私は悪なのだろうか
ただ私は羨んだだけなのに
音楽室に向かう途中で私は大事なことに気づく
そういえば今朝、小林さんが一緒に音楽室に行こうって言ってたような
その時、綾乃さんも誘ったって言ってたような
もしかして私、約束すっぽかした!?
恐る恐る綾乃さんに聞いてみる
「あのー 私の気のせいかもなんだけど、小林さんに音楽室、一緒に行こうって誘われてたかもしれないんですが……」
「ああ、それね 大丈夫だよ ちょっと色々あって真凛ちゃん遅れるらしいけど音楽室で合流することになってるから 私は蓬ちゃんがちゃんと来れるように一緒に来てって言われてたんだよね~」
なるほどそうゆうことか
小林さんは急用で遅れるから、私が逃げ出さないように綾乃さんに頼んでいたと…
いや抜け目ないな!? というかはじめから逃げると思われてた…
まあたしかに四十パーセントぐらいはそのつもりだったけどさ
五分もかからず音楽室に到着した。
扉の前、まだ誰もいない
すると遅れて小林さんがやってきた
「ごめんごめん 遅くなったわー」
「あ、真凛ちゃん どう? 借りられた?」
「そりゃもうばっちり!」
綾乃さんと小林さんがなにやら話している
「あ、カタノちゃんもちゃんと来てるね」
「えと はい」
「んじゃ今、鍵開けるね~」
そういうと小林さんは鍵穴に何かを差し込みガチャリとドアを開けた
「えっ」
「ああこれね 昨日あのあと惠先輩…ああ体験入部ないこと教えてくれた先輩ね あの人からLINEがあって今日は二年生、選択授業の説明会で一時間遅いから体験入部なしって言われてさ」
「ああ はい」
「でも、終ってから普通に部活するって言ってたし『後からでも参加できませんか?』って聞いたら、管理員室で音楽室の鍵借りて勝手に過ごしてて良いって言われてね ああもちろん他の先輩達にも連絡しといてくれるからって」
聞き終わって納得する
いや、頭では理解できても言ってる意味が分からない
つまり小林さんは昨日、あのちょっと怖めの男子の先輩に声をかけて連絡先を交換したうえ、本来ならなかったはずの体験入部のアポまでとったてこと!?
ヤバい コミュ強過ぎる
私なら絶対できないやつだ
「ま、とりあえず入ろっか」
そう言って扉を開けた小林さんを先頭に私たちはダンジョン(音楽室)に足を踏み入れた
桜水高校の音楽室は二重扉だった
と言っても一枚目の扉と二枚目の扉の間に空間がありそこにドラムセット?が置かれてる
はじめて本物のドラム見た…… 密かに興奮してる……
そして二枚目の扉の向こう側にあるのは……
一見、普通の音楽室だった
黒板には五線譜が描かれており、教卓の側には立派なグランドピアノがある
ただその反対側、生徒が座る机と椅子の奥
そこにはさっきのとは違うドラムセット、そして大きなスピーカーが何台も置かれている
さながらライブステージのようだった。
「なにこれ~ すご!? マジのライブステージじゃん!?」
「ほんとだ…… えっすごい ヤマハのドラムにアンプもこんなに…… モニターまである…… え、ヤマハとVOXにBLACKSTARまである… やばくない!?」
二人ともすごい盛り上がってる
綾乃さんとか途中からよくわからない話ししてるし
一通り眺めたところで私たちは適当な椅子に座り先輩達を待つことにした
「へー 二人とも『バンゆり』がきっかけなんだ~」
そう切り出したのは小林さんだ
私たちは改めてそれぞれがどうして音楽部に入ろうとしたのかを話していた
「そうなんだよね 蓬ちゃんまで好きだったのはちょっと驚きだったけど」
「…………確かに」
小林さんに妙な間があったのが怖い
「えと すみません 隠してたわけじゃないんですが(嘘)ほんとにそれだけが理由かと聞かれると微妙だったので……」
「まあ蓬ちゃん真面目だもんね 曖昧な回答はしないっていうか 色々考えちゃう的な?」
「あ、はい そう言ってもらえると……」
綾乃さんがフォローしてくれる 優しい
「なんか二人とも距離近くない?」
「そうかな?」
確かに席は離れてるけど三人向かいあって三角形に座ってるものの綾乃さんの距離が近い
(気がする)
「二人して名前呼びだし」
少し拗ねたように小林さんは言った
「じゃあ真凛ちゃんも『蓬ちゃん』って呼んだら?」
「へ?」
「あ、いいね じゃそうしよ 蓬ちゃんもアタシのこと『真凛』で良いからね」
なんかまたもすごい勢いで距離を縮められたような……
そもそも小林さんにあまり距離を縮められるのはどうなんだろう
一度も同じクラスにならなかったとはいえ一応、同じ中学だったし
私の名前から中学の頃の「あの事件」を思い出されるのはマズイ
でもこのまま「カタノちゃん」呼びよりも名前で呼ばれて小林さんの中で私の認識が
『カタノヨモギ』になったほうが都合がいいかもしれない
「えと じゃあそれで お願いします」
「あはっ 敬語じゃなくていいんだよ~」
小林さんはそう笑って納得してくれたようだった
「ところでなんでこの学校、軽音部じゃなくて音楽部なんだろうね」
次に話題を変えたのは綾乃さんだった
「ああ それね アタシも気になって惠先輩に聞いたんだけどさ」
昨日の今日でそこまで聞き出せる真凛さん…… ほんとに警察とか探偵が向いてそう
「もともと音楽部って吹奏楽とかダンスとかそれこそ軽音部みたいなサークルの集合体だったらしいんだけどさ 少子化の影響で何度か他の学校と合併してくうちに吹奏楽部と軽音部だけ部員が増えて独立したんだけどその時に残ってたダンスとか合唱とか他のサークルの人たちも軽音部側に残ったからあえて音楽部って名前のままにしたんだって」
「そうなんだ……」
綾乃さんはなにやら納得したようだ
でも私には小さな疑問が残った
「でも今は部員が少ないのにどうして軽音部にしないんだろう…」
かつての軽音にも吹奏楽にも属さないサークルの人たちはもういないはずなのになぜ……
「ああなんか生徒会と仲悪いのが原因らしいよ」
「なるほど……」
そう話しているとなにやら音楽室の向こうから物音が聞こえた
「ほんとに一年来てるの? 昨日、すっぽかしたばっかなのに…」
「いいから早く開けなさい」
そんな声が聞こえたあとこのダンジョン(音楽室)に通じる二枚目の扉が開かれた




