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プロローグ

プロローグ


 見下ろした先、校庭の周りには鮮やかな赤い海が広がっていた

状況が理解できない いや、理解しているが頭が、精神がそれを受け入れるのを拒んでいる

さっきまで私は彼女と大切なバンドメンバーであり親友である彼女と話していた

ここから彼女が飛び降りた理由がなんなのか私にはわかる

ただそれを理解したくなくて

ただそれが自分のせいだと思いたくなくて

必死に考えを巡らせる


 すぐに助けに行けば助かるかもしれない

無理だ ここは三階建ての学校のそのさらに上の屋上だ

ゆうに十五メートルは超えたこの高さから飛び降りて助かる人はいない


でももしかしたら奇跡が…起こるはずなんてない

現実はフィクションとは違う

残酷で理不尽でアニメや漫画みたくは行かない

そしてそれを他の誰よりも自分が一番分かっている










いっそ私も死ねたらな



それすらも今の私には選べなかった

あの時、二人のうちのどちらかを選べなかった私には

選べなかった選ばなかったあるいはここで彼女の気持ちを聞いたときにきちんとどちらかを選んでいたなら

彼女は飛び降りなかったかもしれない



私が綾乃を殺した


 受け入れたくない現実がしかし受け入れなければならない事実が頭の中を巡る

さっきまでの保身と逃避にまみれた浅はかな思考ではなく鋭利な刃物で刺されている感覚

綾乃が感じた痛みに比べたら

いや、ただの高校生の私には分からないがもしかしたら綾乃は即死だったかもしれない

だとしたら感じた痛みはそれほど大きくもなく

いや違う

飛び降りる直前、勇気を出して彼女は思いを告げてくれた

しかし私はあの日、私のことを好きだと言ってくれた彼女を思い出し曖昧な返事をしてしまった

その時彼女が感じた痛みはどれほどのものか


お前が殺した

心の中のもう一人の自分が呟く

お前が殺した

更にもう一人、哀しそうに言う

お前が殺した

もう一人、呆れたように語った


お前のせいで綾乃は死んだんだ

最後、唯一の味方はそう怒鳴った


 涙がでてくる

泣く資格なんて私にはないはずなのに

静寂と直後に流れた地面からの悲鳴


屋上には一人の少女の嗚咽だけが響く


「ごめん ごめんなさい」

ただそれしか言えなかった

他に何を言っても言い訳にしかならなそうで



どこまでも無限に広がる青い空

雨のにおいをたずさえて音もなく近づく入道雲

初夏の風がそよぐ屋上に少女の嗚咽と涙が広がり

やがて鳴きだしたひぐらしは嘲笑うようにその声を大きくした


2018年7月31日


なんの変哲もない高校生バンドの


いやかけがえのない青春をともに歩むはずだった仲間


孤独を感じて生きてきた私のたった一つの大切な居場所


AruFa (アルファ)そのボーカルだった朝霧綾乃は



その日、たしかに死んだのだった


これはある一人の少女の選択、その間違いがもたらした悲劇へと繋がる物語だ



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