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派閥の『幹部』

 お茶会会場では、同世代の令嬢たちがテーブルごとに分かれて座っていました。

 リリアーナお嬢様は「皆と交流を深めたい」とおっしゃり、主催者自ら一卓ずつ回られます。


 まずは上座に近いテーブルから。ここに控えるのはお嬢様率いる侯爵家派閥のナンバー2とナンバー3と目される令嬢方。それぞれがすでに小派閥を率いておられる実力者です。


 1人目は、クラリッサ・フォン・ギシャール伯爵令嬢。

 親戚筋にあたられる一つ年上のご令嬢です。武功によって伯爵位まで上り詰めたお家柄で、お父君も騎士団の要職にあり、ご兄弟も皆騎士の道を歩む、筋金入りの武の家系。

 その血筋を体現するかのように、クラリッサ嬢は小さな頃から外遊びを好まれ、今のご趣味は乗馬。武芸にも長けておられます。


「リリアーナ様。お久しゅうございます。」

「ええ、クラリッサ。久しぶりね。」


 彼女のテーブルには活発な少女たちが揃っており、狩猟の武勇談に耳を傾けていました。


「クラリッサは、まるで『騎士姫』のようね。いつか本当に、ドラゴンを狩ってしまうのではなくて?」


「もう、リリアーナ様ったら……お上手ですわ。」


 物語上の伝説の女騎士になぞらえたお嬢様のご発言に、テーブルではふふふ、と笑い声が弾けます。

 皆さまは冗談として受け止めていましたが……お嬢様は本気でその妄想をなさっておられますよ。


「では、いつか大物を仕留められた暁には、その獲物をリリアーナ様に捧げましょう。」


 クラリッサ様もノリが良く、胸に手を当てて騎士の礼をしてみせます。お嬢様も姫君のポーズで応じられ、場は大いに湧き立ちます。

 麗しの女性騎士というのは、王子様とはまた違う女の子達の憧れでございますよね。


「クラリッサは幼い頃、よくこうやってごっこ遊びの騎士役をやってくれたの。

 でも…一緒に妖精にはなってくれなかったわ。」


「ふふ。妖精はわたくしの柄ではないですもの。

でも、騎士役や勇者役は楽しく勤めさせて頂きました。…懐かしいですね。」


 幼い頃の思い出話を披露して、場を盛り上げるお二人。


———そこへ割り込む声が響きました。


「妖精ごっこなら、わたくしとやりましたわ。ねえお姉様?薄絹のショールを羽がわりにしたのよ。」

「まあ、イライザ。」


 周囲に聞こえるようにお嬢様との思い出をアピールするのは、お嬢様の従妹であるイライザ・フォン・エーデルシュタイン子爵令嬢。

 旦那様の弟君が新設された分家のお嬢様です。

 


 お嬢様はクラリッサ嬢達にしばし別れを告げ、従妹のテーブルへ移動なさいます。

 一つ年下のイライザ様は、周囲の年下の令嬢をすでに取り巻きにしておられました。


 ご親族ゆえ、お嬢様の事を“お姉様”と慕わしげにお呼びになるイライザ嬢ですが、立場を理解されているとは言い難い、ちょっと困ったお方です。


「リリアーナ様の今日のお召し物、とても素敵ですね!」

「実は私も!同じ仕立て屋で作ってるのよ!」


 取り巻きが褒めれば、イライザ様はすぐに割り込み、自分も同じだと主張。

 自分こそが会話の中心にいるべき、賞賛を受けるべきと信じて疑われないご様子です。


 その幼い張り合いで、これまで幾度、お嬢様の交流が妨害されてきたことでしょう。

 この日もまた、話題のたびにイライザ嬢が割り込むため、消化不良な交流時間となってしまいました。




 お嬢様のご挨拶が進むなか、広間の空気には緊張が混じりはじめました。

 

———誰もが確信しているのです。


 第一の座は誰もが認める、クラリッサ嬢。

 第二の座は親族枠のイライザ嬢。


 では、第三以降の座は?

それは、『お嬢様に気に入られた者』が占めるのでは、と。

 

 クラリッサ嬢は年上、イライザ嬢は年下ですから、同学年で『日々を共に過ごす存在』の枠はまるまる空いています。


 主家に子が生まれれば傘下の家々も競うように子をもうけ、縁を深めようとする慣習ゆえに、お嬢様と同学年にあたる令嬢は数多くいらっしゃいます。

 

 誰が選ばれてもおかしくない。

 だからこそ、一歩でも抜きん出ようと火花が散りはじめます。

 お茶を運ぶ手元の所作ひとつ、話題を差し出す順番ひとつ。

 その些細なやり取りの裏に、計算や駆け引きが透けて見えました。

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