惨劇のお茶会と名探偵
侯爵家の大広間には季節の花々が飾られ、白いクロスを敷いたテーブルには次々と茶器や装花が並べられていきます。
本日はいつにも増して大規模なお茶会。使用人たちも総出で準備に追われています。
「この華やかな茶会の場で──まさかこんな凄惨な事件が起ころうとは、誰も予想していなかった……!」
高らかに宣言されたのは、最終確認にお見えになったリリアーナお嬢様。
どうやら主催のお茶会を惨劇の舞台になさりたいようです。
お嬢様は席に腰かけ、優雅にティーカップを口元へ……そしてわざとらしく椅子から崩れ落ちました。
「お嬢様!」
「カップの割れる音……広間に響く、少女たちの悲鳴!」
自ら効果音や情景描写を入れつつ胸を押さえ、苦悶の表情を浮かべられます。
「ああ……マリー……。後は……頼んだわ……」
「お嬢様、お気を確かに!」
しばらく苦しむ演技を続けられた後、ついに事切れたご様子。
……本番前に主役が亡くなられては困りますし、そもそも侍女に「後を頼む」と言われてましても。
死体役に浸られたのも束の間。
お嬢様は跳ね起き、今度は主賓席の前で仁王立ちされます。
「わたくしは探偵令嬢リリアーナ! 必ず真相を暴いてみせるわ!」
次は名探偵になりきられ、自らを殺した犯人を探すべく、会場をぐるりと歩き回られます。
ティーカップを持ち上げては眉をひそめ、装花を覗き込み──やがてぴたりと動きを止めました。
「犯人は……この中にいる! 真犯人は──」
ビシッと突きつけられた指先は、私の鼻先。
「侍女マリー、あなたよ!」
「私でございますか!?」
あら、犯人役に指名されてしまいました。
本物の推理小説では侍女は単なる“実行役“、陰で糸を引く存在がいるのが定番ですが、今日の筋書きは単純明快です。
「あなたは日頃からリリアーナ嬢に恨みを抱いていた。ささいな事から口論になった二人。激昂したあなたはテーブルの花器を手に取り──」
「……死因は毒殺では?」
「あ……」
犯人からあっさり推理の矛盾を指摘される名探偵。
お嬢様の妄想劇は、しばしば設定が行き当たりばったりなのです。
「ふふふ。いいところに気づいたわね、マリー君。さすが私の助手!」
私の配役も、“犯人”から“助手”に設定変更。お嬢様は私を引き連れて更なる調査に臨みます。
しばらく探偵ごっこを堪能されたのち、お嬢様はようやく満足されたらしく微笑みました。
「さあ、支度に戻りましょう、マリー。
わたくしの探偵としての勘が告げているの。今日は……何かが起こるって!」
不穏な予告を残し、颯爽と広間を後にされます。
……まるで第二の事件の前触れでございますね。
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本日のお茶会に招かれているのは、侯爵家の傘下にある9歳から13歳までの令嬢たち。
いずれ王立学園でお嬢様と同学年、あるいは近い学年で学ぶ顔ぶれです。
王立学園は貴族社会の縮図。
高位貴族の子女は派閥を率いることも期待され、そのための人脈づくりは入学前から始まります。
今までリリアーナお嬢様は、良くも悪くも皆に平等に接し、特別なお友達を作ってこられませんでした。
ですから、今回のお茶会は「いよいよ側近候補を選ばれるのでは」と、内々に噂されているようです。
招かれた令嬢方は、なんとか選ばれようと意気込み十分。
華やかな笑顔の下でバチバチと火花が散る、少女達の戦いが始まろうとしていました。




