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お家騒動の終焉

 王城で拘束されていたイライザ嬢が、何を主張していたのか。

 詳細がようやく私たちの耳にも入ってきました。


 養女にしてほしい、ではなかったそうです。


 彼女は、もっと大胆で、もっと身の程知らずな言葉を口にしていました。


「誰もなりたがらないのであれば、

 わたくしが王子妃になって“あげます”わ。」


 そう、言い切ったのだと。


 この言葉には城の兵士達も、応対した当直の文官も、絶句するほかなかったと聞いております。

 

 当然でございます。

 身分証もなく、侍女も伴わず、正式な登城許可もない令嬢が、王子妃になると言ってきたのですから。


 精神に不調をきたしていると疑われたのも、無理はありません。


 そのため、守衛所の担当者は、ひとまず彼女を城門そばの控室に留め置き、保護者に連絡した上で引き取りを待つ、という穏便な対応を選びました。


 なお、御者のほうは。

 錯乱状態の令嬢を侍女もつけずに馬車に乗せていた点を不審に思われ、別途拘束されていたそうです。



 エーデルシュタイン子爵家には、その日の深夜には城から連絡が入っていました。

 ですが子爵の返答は、驚くほどあっさりしたものだったそうです。


「その娘はすでに勘当している。」

「私が関与するつもりはない。」


 身元の引き受けを明確に拒むその態度に、兵士達は強い違和感を覚えたようですが……。

 当主自らが勘当を宣言している以上、彼女の引き取りを強制できませんでした。


 こうしてイライザ嬢は、その時点で「平民」として扱われ、留置所へ移されることになったのです。



 その後、数日間。

 時間だけが過ぎていきました。


 彼女の処分の決定は難航したと聞いております。

 もし、元から平民であったなら、鞭打ちの上で即日放逐されていたことでしょう。


 しかし、世間知らずの「元」貴族令嬢を市井に放てば、ならずものの餌食になるのは目に見えています。

 兵士達は、それを危惧していたのでした。


 転機となったのは、一人の兵士が、失踪した少女を捜索している家があるという噂を入手したことでした。

 同じ家名を持つ両家。もしや……と。




 王城で働いておられる旦那様、エーデルシュタイン侯爵へ、非公式ながら連絡が入ったのです。


 結果として、旦那様は、イライザ嬢の身元引受人になるほかありませんでした。


 それが、侯爵家としての責任であり、同時にこの騒動を終わらせる最短の道でもあったからです。


 かくして留置所から引き取られたイライザ嬢は、侯爵邸を経由することなく修道院へ送られました。


 もともと受け入れが決まっていた所です。

 ただし、条件が変わりました。


「平民として扱うように」

「下働きに就かせてよい」


 旦那様は、先方にそう伝えたと聞いております。


 家名も、身分も、未来も失われて。

 イライザ嬢に残ったのは、修道院で与えられる、最低限の衣食住だけでした。




 一方で。

 この一連の顛末は、王家にとっては都合のよい展開だったようでした。


 兄弟仲良く、と子爵を庇ったことで、貴族達から強い反発を受けた王家。

 子爵を自ら切ることで、過去の判断の誤りを帳消しにしようとしたのでした。


「親の責任を放棄し、あの時点で娘を勘当するなど、あり得ません。」

「王城に迷惑をかけた責任は、父親が負うべきです。」


 愛を説く王妃殿下は、子爵の娘への仕打ちに深く心を痛められた。

 そういう筋書きが調えられました。


 その結果、ミハイル・フォン・エーデルシュタイン氏には、爵位剥奪の処分が下りました。


 そして、空席になった子爵位は、予備の爵位として、エーデルシュタイン侯爵家へ返還されたのです。

 まるで、「これで水に流せ」と言わんばかりに。




 元子爵は、侯爵領の塔に押し込められ、万が一にも蜂起せぬよう、監視付きの生活を送ることになりました。

 

 妻とは離縁。

 残された子どもたちは、母方の実家に引き取られることになりました。


 ひとつの家が、音もなく解体されたのでございます。




 すべてが終わったあと、お嬢様はぽつりとおっしゃいました。


「……イライザは、何を間違えたのかしら。」



 私は、少し考えてから答えました。


「価値を、取り違えたのだと思います。」


 家柄という借り物を、自分自身の価値だと信じていたこと。

 他の価値を積み上げる努力をしてこなかったこと。

 そして、それを失ったあと、自分には何も残っていない現実を受け入れられなかったこと。


 それが彼女をここまで追い込んだのでしょう。


 お嬢様は、静かに頷かれました。


 こうして、この夏のお家騒動は、終焉を迎えたのでございます。

 あまりにも、多くのものを失いながら。

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