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波乱の入学初日

 翌朝。王立学園の大講堂は、新入生で埋め尽くされておりました。

 高い天井からは豪奢なシャンデリアが光を放ち、深紅のカーテンと絨毯が空間を引き締めます。壁面には学園の紋章が掲げられ、まるで王宮の式典のような威容でございます。


 これまで家庭教師や親族の輪の中で育ってきた令息令嬢たちにとって、この入学式は初めて同世代が一堂に会する場。緊張と期待の入り混じる舞台に違いありません。


 壇上の学園長は長い白髭を撫でつつ、学園の伝統と使命を語られました。

「学園での三年間は大いに学び、鍛え、己を磨きなさい。諸君がここで得たものは将来の国を支える礎となるでしょう。」


 その厳かな言葉に、一同の背筋が正されます。


 そして。

「新入生代表、アルノルト第二王子殿下。」


 歩み出た殿下は、まるで絵画から抜け出したような若き王の風格。澄んだ声が堂内に響き渡ります。


「伝統と格式あるこの学園で学べることを光栄に思う。

 先生方、そして仲間たちと共に、充実した学びの時を過ごすことを誓おう。」


 その凛としたお姿に、会場の視線は一斉に吸い寄せられました。


 隣席に控えるのは、噂の公爵令嬢──ヴァルトハイム家のカトリーナ様でありましょう。

 先程から姿勢ひとつ乱れず、纏う気迫はただならぬものでございます。


 リリアーナお嬢様やユリウス様もまた、家格に応じた前方の席にお座りです。

 使用人席からは後ろ姿しか見えませんが、妄想で大はしゃぎしている普段のお二人からは想像出来ないほどの堂々たる姿。こうして眺めていると、お二人がいかに雲の上の存在であるかを痛感いたします。


 エリカ嬢は会場中央あたり。落ち着かずに首をひねり回し、例の“ヒロイン(仮)”を探しておられるように見受けられます。周囲の下級貴族の新入生もそわそわしているおかげで、悪目立ちせずに済んでいる事が幸いです。

 以前彼女は、「ヒロインは校舎で迷子になって入学式に遅刻することがある」などと仰っていましたが……さすがにそこまでの愚か者はいないようで、新入生用の席はきっちりと埋まっておりました。





 式を終えると、新入生達はクラス毎に各教室に移動いたします。

 

 一週間程前、通知された自分のクラスがユリウス様やエリカ嬢とは別だと知った時のお嬢様の嘆きようは、それはもう相当なものでした。


「旧知の仲間とはぐれ孤独になった主人公、新たな冒険を経て成長するの……! 仲間はそれぞれに試練を乗り越え、やがて再会するのよ……!」


 現実には傘下の令息令嬢の幾人かは同級なのですが、妄想のなかではすっかり“孤高のヒロイン”。失意のなか己を奮い立たせるべく、冒険の想像を膨らませておいででした。



 さて、教室への移動は第二王子が在籍するクラスから始まり、次いで公爵令嬢のクラス、ユリウス様のクラスと進んでいき、とうとうリリアーナお嬢様のクラスの番になりました。


 同級には騎士団長令息と辺境伯のご令嬢がいらっしゃるようです。

 各クラスの顔ぶれを見れば、学園が王族や高位貴族、有力地方貴族を慎重に振り分けているのが一目瞭然。

 この感じだと……残念ながらお嬢様とユリウス様が同級になることは今後もなさそうです。


 教室では担任からの説明と各自の自己紹介などがあり、本日は午前のうちに解散とのこと。私は寮へ戻り、お部屋を整える準備に取りかかったのでございました。





 行事を終えられたリリアーナお嬢様は、昼下がりにさっそく傘下の令嬢達を自室にお呼びになりました。お茶を囲みながら他クラスの情報収集です。

 

「エリカは殿下と同じクラスだったわね?」


「はい。殿下は終始ご気さくで、平民枠の学生にも気軽にお声をかけておられました。

 自己紹介では『学びの場では皆平等、身分は気にせずに接してほしい』と……。」


 その親しみやすさに場はどよめき、お嬢様も目を輝かせます。


「まあ、それではきっと、殿下に恋をしてしまう学生が続出するのではなくて?」


 お嬢様の発言にご令嬢方はくすくすと笑います。誰かが小声で「ご婚約者様が恐ろしすぎて無理ですわ。」と呟きました。

 命が惜しければ殿下の方を見てはいけない、自分から話しかけるなどもっての外、などという忠告まで飛び交う始末。


 まるで面識のないご令嬢達からもここまで言われるカトリーナ・フォン・ヴァルトハイム公爵令嬢、やはり只者ではありません。


「同じクラスの貴女からは、カトリーナ様はどう見えて?」


 お嬢様の問いに、公爵令嬢と同じクラスの生徒が震える声で答えました。


「……自己紹介の場で、あの方は仰いました。

 『わたくしと同じクラスになったからには、無様は許しません』と。

 皆の様子を逐一書き留められ、礼がぎこちなかったり、言葉がつかえた者は終了後に残されて厳しく叱責を受け……。宰相家のご令息が止めてくださらなければ、わたくしも……!」


 部屋の空気が一瞬にして凍りつきました。


 気の毒なその令嬢に、周囲から同情の吐息が漏れます。未来の王子妃に圧力をかけられた後の自己紹介など、平静を保てる者の方が少ないでしょう。



「わたくしが見る限り、一門の者は全員礼節を心得ているように思うけれど……。言いがかりをつけられては困るわね。

 皆で一度、礼儀作法をおさらいしておきましょう。男子学生の様子も気にかかるし、ユーリとも相談するわ。

 かの方への対応も、考えておかなくてはね。」


各クラスの状況を楽しく聞き出そうと思っていたであろうお嬢様。入学初日からいきなり派閥対応に追われることになろうとは。

 煌びやかな学園生活の幕開けは、波乱の色を帯びていたのでございます。

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