姉妹の生存競争
リリアーナお嬢様と同学年の令嬢ばかりが集うテーブルは殺伐としていました。
ライバルから一歩でも抜きんでようと、遠回しな中傷合戦になっていたのです。
「リリアーナ様。この子ったら、『生まれる前は別の世界に住んでいた』なんて言っているんです。驚きでしょう?」
「ええ。なんでも、“前世”の死因は”馬を引かない荷馬車に轢かれた”、でしたかしら。聞いた事がない名前の食べ物を探し回っていたりもして……。なんとも不思議な子なのです。」
「そ、それは。幼い頃の話で!」
顔を赤くして弁解する令嬢をよそに、周囲からは忍び笑いが漏れます。
夢見がちね、と囁く声。子供じみているわ、と嘲る声。現実とお話を混同しているのね、と冷たい笑み。
……目の前のお嬢様が今も現役で似たような空想を楽しんでおられると知ったら、彼女たちはどう取り繕うのでしょうね。
お嬢様は逆に興味を惹かれたご様子で、その令嬢に問いかけようと身を乗り出されました。
———その時です。
別の卓から激しい言い争いが聞こえてきました。
声の大きさに、広間の視線が一斉にそちらへ向きます。
すると、その中からひとりの令嬢が飛び出し、お嬢様の御前に跪きはじめたのです。
「リリアーナ様! どうか、どうか私を将来、王立学園でお側に置いていただけませんか!」
広間が一瞬、しんと静まり返ります。
誰もが願っていながらも、口に出すことをためらっていた、直球すぎる懇願でした。
「学年は一つ上ですが、その分、授業の経験を生かしてお役に立つと約束いたします。帝国語も、歴史も得意です! ですから、どうか!」
跪いたのは、とある男爵令嬢。その傍には呆れた様子の彼女の妹が立っていました。
「なにを言ってるのよ、お姉様。王立学園に行くのはお姉様じゃなくて、わたくしに決まってるじゃない。だって、わたくしはリリアーナ様と同学年なんですもの。」
周囲の囁きで事情はすぐに知れます。
親が用意できる学費は一人分。
妹は同学年としてリリアーナお嬢様のお側に侍る可能性があるが、才気があるのは姉の方。
どちらを王立学園にやるか、当主が決断を下しきれぬまま今日に至ったとのこと。
「父は、本日のお茶会でリリアーナ様のお目にとまった方を残す…と。ですがお目に止まった証なぞ、どう示せましょう。
もし決め手に欠ければ、父は、未来へ希望を託すと妹を選ぶでしょう。ならば、わたくしは…。」
姉は、追い詰められた末に正面突破を試みたのでした。
「事情は理解したけれど、それでリリアーナ様に選択を迫るのは、不敬も甚だしいわ。」
クラリッサ嬢が低い声で叱責します。
そもそも本日のお茶会で招集されているのは入学予定者のはず。両方お目通りさせた上でお嬢様に選択の重責を背負わせるなど、男爵家の認識そのものが無礼なのです。
下級貴族の内情など似たり寄ったり。他家ではもっと早いうちに、当主の手によって令息令嬢は淘汰されています。
神殿学校にいる子供達や……かつての私のように。
リリアーナお嬢様は困惑なさった様子でじっと考え込んでおられました。
「本当に、親御さんが結論を放棄していて……わたくしに決めて欲しいということなのかしら?」
その一言に令嬢たちが一斉に息を呑みます。
リリアーナ様の言葉ひとつが、家の未来を左右しかねないからです。
「待ってくださいませ、お姉様。」
イライザ嬢がすかさず割り込みます。
「あなた達、お姉様に無理やり選ばせて、少なくとも姉妹のどちらかはお側に上がろうというつもりではないでしょうね? それはずるいわよ!」
「そうですわ! 他の者たちだってお側を望んでおりますのに!」
お嬢様のお側を狙う他のご令嬢の気持ちを代弁したようなイライザ嬢の台詞に、周囲からも同調の声があがります。
「ならば2人で正々堂々と勝負をし、勝った方でよろしいのでは。決闘か、あるいは盤上遊戯か。わたくしが見届けて差し上げます。」
毅然と言い放つクラリッサ嬢に、
「年の差があるのよ。不公平だわ!」
と、即座に反論するイライザ嬢。
幹部同士の言い争いまで発展し、広間の少女たちが固唾を呑んで成り行きを見守るなか、リリアーナお嬢様の柔らかな声が響きました。
「では、こうしましょう。2人には得意なことを、それぞれ披露してもらうの。
どちらがより輝いて見えるか。皆で見て、皆で感じとりましょう。」
意外な提案に、令嬢たちは顔を見合わせます。
「そうだわ、どうせなら皆でやりましょう。
次の集まりは『得意なこと発表会』にするの。それならきっと楽しいわ。」
まるで遊びの予定を立てるかのような無邪気なおっしゃりよう。しかも会場の皆までを当事者にして。
ですが、お嬢様のこのご発言により姉妹対決は次回に持ち越しと皆が認識し、一旦その場は収まりました。
———『得意なこと発表会』。
当のお嬢様は、あくまでお茶会の余興程度にお考えだったに違いありません。
けれど、令嬢たちには『御前で特技を披露する機会』と受け止められ、それが親たちの耳にも届いてしまったのです。
早くも翌日、旦那様は部下達からこんな懇願を受けられました。
「閣下。男子にもリリアーナ様の御前で実力を披露する機会をいただきたく存じます。」、と。
声をそろえて頭を下げたのは、お嬢様と同世代の息子を持つ者達。切実な親心がにじみます。
確かに、お嬢様が王立学園で同級生となるのは女子ばかりではありません。
婿取り娘であるお嬢様ですから、傘下の男子生徒との関わりだっておろそかにできません。
ならば、お披露目の場を男女ともに設けることは理にかなっている、となりまして……。
事はあれよあれよと拡大していきました。
準備には大奥様も関わられ、お茶会の延長のはずだったこの「お披露目会」は、気づけば侯爵家傘下の子女が一堂に会する公式行事へと変貌をとげてしまいました。
当然の如く、わたくしマリーも、その奔走に巻き込まれていったのでございます。




