幽籠花譚<ゆうろうかたん>エピソード05 僕は魔導士だ
視点:リアム
「はあ、聞き分けができる子だと思っていたのに」
「・・・すみません」
あの後、僕らはお師匠さまに助けられたらしい。
「いえ、ダンジョンに挑ませたのはわたしなのだから、怒るのも筋違いなのでしょう」
ベッドの横に座っていたお師匠さまが立って窓に近寄っていくのを視線で追いかける。
そのまま外を見ていたお師匠さまが振り返るけれど、その表情は影になってて見ることができない。
「保険を掛けておいたとはいえ、さすがにあの状況は肝が冷えた。もう弟子にはあんなことはさせたくないと思ったぐらいにはね」
「あの・・・すみません」
「あなたが謝ることではないよ。わたしが師として至らなかっただけなの」
「いえ!」
寝ている身体を無理に起こして声を出すも、お師匠さまに押されてまた横になった。
いまだに見えない表情は怒っているのだろうか。呆れているのだろうか。
そのまま静かなままでいると、お師匠さまが言いにくそうに口元を動かしている・・・気がする。
「うん。なんだ。わたし自身の反省はおおいにやっておくとして見つけられたみたいだね。
リアムーーーあなたの完全詠唱<アーク・オーヴァチュア>を」
「ーーーはい。僕の、僕だけの呪文です」
「そう」
一言呟いてまたお師匠さまは静かになった。
「これでわたしから教えられることは全部教えられたつもりだよ」
「はい」
「あなたは頑張ったわ。本当に頑張った。師として一つの到達点に弟子が至ったことは本当に嬉しい」
「はい」
「これからはーーー大丈夫ね?」
はい、とは言葉にできなかった。
それを言ってしまえばお師匠さまはお師匠さまでなくなってしまうから。
もっと一緒に教えてほしいことだってあるし、もっと見ててもらいたい。
「リアムはきっと良い魔導士になるわ」
「・・・はい」
涙が出てくるけれど、それ以上にお師匠さまに撫でられている頭がとても気持ちよかった。
「あなたがこれから成長していく過程。そのすべてを見ていたいけれど、それはきみの仲間たちと分かち合うべきことなの。分かるでしょう?」
「・・・はい」
「ん、よろしい」
撫でられていた感触が離れいくのが寂しかった。
「みんながドアの向こうで待っているから、わたしはこれで失礼するわね
ーーーああ、そんな目で見てもだめよ。みんなが待っているわ」
はい、と声に出せたのだろうか。
「それじゃ、今度はもっと良い男になりなさい。世界を見てみなさい。そうすればどこかで会えるわ」
「会えーーーますか?」
「ええ、あなたがそれを望めば世界にだって干渉できるもの」
『それが魔導士でしょ?』 」
お師匠さまは笑ってそう言ってくれた。
なら会える。
「はい! 僕は魔導士ですから!」
この子はきっと良い魔導士になってくれる。
初めての可愛い弟子。
今度はどこで出会えるのかしら?