補章|記録ポッドの回収と報告書
【資料番号:JMSDF-FRAG-22-ISA-POST-001】
【文書分類:極秘/戦術技術評価用】
【提出先:防衛省統合幕僚監部・調査分析班】
【報告名:南シナ海漂流記録体の回収および初期解析報告】
[1]回収の経緯
2025年5月9日、南シナ海南西海域において、シンガポール船籍の貨物船〈Sea Lion IV〉が航行中、海上に浮遊する黄色筐体を発見。
貨物長の判断により回収された本体は、外装に【JMSDF/ERDP】の刻印、及び「ISE-211」の個艦識別ナンバーを有していた。
当該ポッドは、海自護衛艦〈いせ〉搭載の**緊急回収型データポッド(ERDP-II型)**であり、速やかに在星防衛駐在官を経由して航空機により横須賀基地へ搬送された。
[2]記録内容の要旨
記録内蔵メモリ(64GB SSD/自律暗号化型)には、以下のデータが収録されていた:
艦体被害マップ(時系列別)
火災・浸水記録ログ(DC班手動記録)
音声記録(艦橋・指揮所・DC通信)
戦死者記録(手書きスキャンPDF/最終記録時4名)
艦長指令記録(全3通)
【備考】艦長の私的書簡と思われる“末尾ファイル”あり(別記)
[3]技術的所見
ポッドの緊急排出装置は艦側の遠隔コマンドではなく、手動操作によって作動。
射出時間記録は2025年4月27日 午前10時23分(JST)。
その時点で〈いせ〉は通信不能、AIS沈黙、レーダー沈黙状態にあり、以後の所在不明。
本記録の正確性については、タイムスタンプ及び音響センサー記録により改ざんの形跡なし。
[4]艦長指令ファイル(抜粋)
【最終指令記録|艦長・山之内真一(2佐)】
「この艦が誰にも知られず沈むことを、私は拒否する。
敵の名も、動機も、手段も、我々には不明だ。だが、我々がここで“抵抗した”という事実は、残さねばならない。
このポッドがもし拾われるなら、その時、これは“艦の死”ではなく、“報告”となる。
自衛艦〈いせ〉、乗員82名、うち戦死4。
我々は、判断し、記録し、送信した。これは命令ではなく、報告である。
以上をもって、戦闘記録を閉じる。
—艦長 山之内 真一」
[5]評価と結語(草案)
本記録は、戦術的教訓として以下を含む:
小型自爆型無人艇による非対称スウォーム戦術の実用性と脅威
識別不能状態下における海自交戦規則の運用限界
指揮系統断絶下における艦長権限の拡張的運用
記録媒体の手動排出と、その戦略的意味
また、文民統制下における現場指揮官の“倫理的判断”が国家戦略上どのように位置づけられるか——
これは、防衛組織全体にとって“未処理の問い”である。
【別添:遺族通知写】
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
このたびはご尊父 秋田翔伍 海士長(享年22歳)の殉職に際し、海上自衛隊一同、深く哀悼の意を表します。
秋田海士長は、〈いせ〉艦内において、被害制御(DC)班員として前線火点にて消火作業中に殉職されました。
その記録は、〈いせ〉より発射された記録ポッド内に保管されており、確かに我々の手に届きました。
その命は、誰かに命じられたものではなく、彼自身が「守るため」に選んだものであります。
どうか、その誇りをお胸に刻んでいただけますよう、心よりお願い申し上げます。
敬具
防衛省海上幕僚監部