出エジプト記 12章12節
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ヒロトの目は冷たく光っていた。彼の内に秘められた力――The Forgotten Oneの心臓が宿る脳――が今、完全に覚醒していた。手のひらから、静かに、しかし確実に、都市全体へ向けて力が放たれる。
デーヴァの首都は、その瞬間、運命の恐怖に包まれた。黒光りする高層建築群の下で、空中を浮遊する車や機械は、まるで抵抗を試みるかのように微かに震えた。ヒロトは何も言わず、ただ彼の意志を都市に押し付ける――それは、神の意志のような、冷徹で絶対的な命令だった。
まず、ヒロトの意志は大地に宿る黒い土――チェルノーゼム――を灰に変えた。豊穣の象徴は一瞬で死の粉となり、都市の生命線が根底から崩れ落ちる。次に、巨大な冷核融合バッテリーが連鎖的に爆発し、都市の心臓とも言える無限のエネルギー源は炎と煙に飲まれた。鉄の巨人たち――デーヴァの戦闘用ロボット――は暴走し、互いにぶつかり合い、瓦礫と化す。
病院のナノボットもまた、ヒロトの掌の下で錆びつき、有害な金属に変質した。かつて命を守るために働いた微小機械は、今や無力な市民たちの死を見守る存在となる。
「なぜ、私たちはエヴォルと戦うのだろう……」
戦場の混乱の中、一人の兵士が問いかける。
「彼らを憎むからだ」
隣に立つ同僚は、ためらいもなく答える。
「……なぜ、憎むのか?」
沈黙が数秒流れる。街は崩れ落ち、建物は地面に呑まれ、空気は火薬と粉塵に満ちている。
「……分からない」
その声は、遠くで崩れゆく都市の叫びにかき消された。デーヴァの兵士たちは既に、己が何を守り、何を憎むのか、思い出すことすらできなかった。憎しみは世代から世代へと受け継がれ、理由を忘れたまま、ただ行動の連鎖だけが残っていたのだ。
ヒロトは冷徹なまま前へ進む。彼にとって、これは復讐でも正義でもなく、自然な選択にすぎなかった。異なる者を排除する世界の秩序に、彼自身が拒絶され続けた過去が重なる。だが今、彼は立っていた――異端を守る者として、神の心臓を宿した存在として。
都市は地響きと共に崩れ、空を裂くような雷鳴の中で、ヒロトの冷たい視線は決して揺らがなかった。地面は裂け、建物は倒れ、街は灰と破片の海に変わる。知性を操る者も、権力を振るう者も、今や無力。クリストバル・フェルストルツェルンとダビド・フェルストルツェルンは、意識を失い、愚かさの中で倒れた。
ヒロトは一言も発せず、ただ都市の全てを自身の意志のままに変え続ける。冷徹な神のように、すべてを焼き払い、すべてを支配する。時間が止まったかのような都市の光景――それこそが、彼の存在証明であった。
都市の廃墟の中、わずかな生存者たちは見つめるしかなかった。冷たい空気に満ちた死の世界の中で、ただヒロトの影だけが、絶対的な秩序と冷徹さを象徴していた。
そして、都市は完全に、彼の手の中にあった。
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