メシア
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森と調和するように築かれた街の中を、ヒロトはミラグロスに連れられて歩いていた。石畳の道、木々と共に成長する建物、空を舞う鳥たちの声——すべてがまるで自然の一部のように感じられた。ここは、自然と都市が融合したような場所だった。
「この国の名前はエヴォル」と、ミラグロスは穏やかに話し始めた。「私たちエヴォルの人々は、自然との共生を大切にしているの。私達は自然の一部、自然の延長線上にある存在として生きているのよ」
ヒロトは無言で頷きながら周囲を見回した。建物には樹木が絡まり、屋根には苔が生え、まるで街全体が呼吸しているようだった。
「私たち魔法少女の力も、すべて自然から与えられるもの。魔法の杖も、特別な魔法素材を自然から採取して作られているの。魔法とは、自然との絆そのものなのよ」
その言葉に、ヒロトの目がわずかに動いた。
「でも……私たちに敵がいるの」
ミラグロスの表情が曇る。
「隣国のデーヴァ。あそこは高度なテクノロジーに支配された国。機械と都市と支配を崇拝し、自然を切り捨ててきた。そして……私たちの存在を“異端”として忌み嫌っているの」
ヒロトの足が止まる。ミラグロスはゆっくりと顔を上げた。
「デーヴァの王族は独裁的で、魔法少女を滅ぼすために軍隊を送り込んでいる。去年、私は予知の魔法で未来を見たの。そこで、私たちを救う一人の“魔導士”の姿が現れた……その人こそ、あなたよ、ヒロト」
ヒロトの目がミラグロスを見つめ返した。その瞳には、かつてない静かな炎が灯っていた。
「満月の夜に、私はあなたをこの世界へ呼び出す儀式を行った。それが、今夜だったのよ」
しばらく沈黙が流れた。
ミラグロスは不安そうに言葉を続けた。「だから、あなたにはこれから魔法少女の魔法を学んでもらいたい。そして……エヴォルを守る“新たな力”として、立ち上がってほしいの」
ヒロトは視線をそらすことなく、ただ一言だけ答えた。
「……わかった、やるよ」
その言葉に、ミラグロスの目が潤んだ。彼女は微笑んだ。ヒロトの答えは、まるで森の中に差し込む一筋の光のように、希望の始まりだった。
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