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名のある乙女は令和を生きる

 気づいたとき、わたしは見知らぬ土地にいた。


 ううん。


 見知らぬはずなんだけど、わたしはそのその場所を知っていた。


 着慣れない制服というリボンのついた衣装はわたしが毎日着ているもので、令和という時代の中でわたしは『愛理あいり』と呼ばれ、仲間たちに囲まれて生きていた。


 頭が痛かった。


 不思議な感覚だった。


 どうも長い夢を見ていたようだ。


 アイリーンと名乗る、異世界の女の子に自分の人格を重ねていたような、そんな夢だった。


 本当に夢なのか?


 不思議な感覚だった。


 今までのわたしの記憶だと思っていたものは、すべて夢だったということなのか。


 考えれば考えるだけ苦しくなる。


 この世(愛理の住む世界)にテオという人物は存在しない。


 本能がそれをわかっていた。


 大好きで大好きで仕方がなかった人がいない世界に絶望しか感じられなかった。


 テオ、テオ、テオ……


 聞いたことはあるのに、彼の記憶はすべて夢の中のものだと思えるようになった。


 そんなとき、何気なく手にした書籍の中で、彼の名前を見つけた。


 よほどの愛読書なのだろう。


 寝室の本棚にずらりと並べられたそれには透明のブックケースまでつけられていた。


 それらは保存用だということ、そして読書用としてきれいなブックカバーをつけてもう一冊同じ書籍をいつもカバンに入れて持ち歩いていること……そんなことを、表現が適切かどうかはわからないけど、今更ながらに思い出した。


 夢を見たのは、この作品の影響であることは間違いなかった。


 愛理は人気の高い女の子でいつも多くの人間に囲まれていたけど、片時もその書籍を手放すことはなく、ひとりになるとすぐにそれを開いてページをめくっていた。


 はるか昔にすでに読み終えているその作品を、何度も何度も。

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