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名もなき乙女の決断

『アイリーン・オスバルト。君の力をわたしたちに貸してほしい』


 昼下がり。


 突然現れた王家の紋章をつけた男たちはそう言うなり頭を下げた。


 力を、ということは、わたしのものというより、わたしに封印された力のことなのだろう。


 魔物が現れて彼らが対応せざるを得なくなった今、いつかはそんな日が来るのだろうと思っていた。


 そんな未来を想像した時、まず先に思い浮かんだのはテオのことだった。


 思ったよりも、わたしは彼のそばにいられる期間はもうないのかもしれない。


 残念ながら、わたしの未来にもテオはいなくても、仕立て屋になる以外の未来を信じて疑わなかったことはない。


 父さんや母さんを継いで、わたしも彼らのように働き続けていくのだと思っていた。


 未来は、音を立てて変わっていく。


 事件が大きくなっていく中で、様々なことがどんどん動き出している。


 生きる時代が、悪かったのだ。


 受け入れるしかない。


 勇者と巫女が街を……いえ、この国を守っていくというのなら、彼らが全力で力を発揮できるようにわたしはわたしで何かがしたかった。


 だけど、今のわたしにはできないことの方が多かったから、考えることが増えた。


「アイリーン、何があってもしばらくはひとりで外へでないって約束してほしい」


 切実な物言いからは有無を言わせぬ強さがあった。


「どこかへ行きたいときは、俺が必ず付き添うから」


「で、出ないよ。出るわけないじゃない」


 ぐっと握られた指先に力がこもり、ひゃっと飛び上がりそうになる。


「心配なんだ。アイリーンには、安全なところにいてほしいと思っている」


「あ、ありがとう。わかっているわ」


 まるでわたしの心を読み取ったかのように向けられた瞳があまりにも真剣で、見返すことができない。


 これから先に考えていたことなんて、絶対に言えそうになかった。


 これから勇者になるあなたを、影からでも支えていきたい。


 たとえ二度と会えなくなっても。


 わたしはテオに無事でいてほしかった。


「俺が守るから」


「え?」


「命をかけてでも、アイリーンを守るから」


 え?


 えええ??


 熱い瞳に引き込まれそうだ。


 頬が少しずつ火照っていくのを感じる。


「い、命をかけられても困るわ。わ、わたしだってテオには無事でいてほしいのよ」


 じわっと汗がにじむ。


 雰囲気がなんとなく今までに感じたことのないものに変わった気がした。


 兎にも角にもあわてて空気を変えようと的確な言葉を探して並べる。


 こ、これは……


「あ、ありがとう」


 適切な答えがこれなのかよくわからない。


「なにかあっても逃げるのは得意だもの」


 だけど、わたしと彼との間に生まれるべきではないムードを壊すには思いつく言葉を発し続けるしかなかった。


「何かあったらテオの元に逃げるから!」


 できればテオにも危険なことはしてほしくないけど、彼がいてくれるから、わたしが心穏やかに過ごせているのは間違いない。


「そうだな」


「え……」


 ふっと口元を緩めたテオが目に入った途端、掴んだうでをぐっと引き寄せられ、いつの間にかテオの胸の中にすっぽり収まっていた。

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