魔物退治とメイクアップ
「まぁーたおまえか! いい加減にしろよ!!」
足元で飛び散り、所々で奇妙な動きを見せているのは魔物たちの残骸だろう。
(せ、成功した……)
「おい! おまえ、聞いてるのか!!」
何度目になるかわからないオルガーのけたたましい声が暗い夜道にこだまする。
「しっ、しっかり捉えたんだから問題ないはずよ」
余裕を見せて立ち上がりたいはずなのに、情けなくも腰が抜けて動かない。
「おまえの死骸を回収する予定はねぇ!」
「死体になる予定もないわ!」
なんだと?と感情をあらわにするオルガーの瞳に映った愛理は、不敵な笑みを浮かべる。
この子は無敵だ。
「オルガー、近所迷惑だ」
いつものように隙なく剣を振るうテオもこちらに気づいたのか、向かってくるのが見えてドキリとする。
初めて魔物に襲われた日から、夜の外出が控えられ、舞姫の練習もしばらくは禁じられた。
得体もしれない生き物が現れたにも関わらず、それらの存在はまだ魔物だと知られていないこの街で、警護に当たる若い男性たちも突如として忙しくなり、例にもれずテオもほとんど外に出ていることが増えたのだと風の噂で聞いた。
時間ができるたび、顔を見に来てくれたみたいだったけど、わたしはできるだけ顔を合わせないようにしていた。
というか、合わせられなくなっていた。
意識してしまった。
テオのことも美琴のことも、これから先の未来のことも。
しっかりと意識をしたら、今のわたしにどう接していけばいいのかわからなくなった。
だから、彼とはしばらく会えていない。
「大丈夫ですか?」
またおまえか、と言うこともなく変わらぬ紳士的な動作で手を差し伸ばしてくれるテオ。
どんな女の子にもこうなのかと思えたらいささかムッとしてしまいそうになったけど、必死にこらえ、笑顔を作る。
「平気です。ちょっとバランスを崩しただけ」
たとえ愛理が凛としていて無敵の性格をしていても、中の人は臆病なわたしだ。
早々簡単に身も心も変身できるわけではない。
明らかに立ち上がれないのに、威勢だけは一人前だ。
「なにが起こったんですか?」
「この水滴には起爆処置が施されています」
化粧水の瓶を取り出し、ゆっくり注げる。
「まだ試作段階だったので半信半疑でしたが、うまくいったようです」
まだまだ弱いが、確かな効果はあった。
「半信半疑って……」
「ほんの少しの時間稼ぎならできます。女性や子どもなど、どうしても戦闘時に不利になってしまい人たちのお守りにでもなってくれたらいいのですが」
ひとりで試行錯誤を繰り返し、納得しているわたしを眺め、テオははぁ〜と息を吐く。
「何度も言うように、危ないことは控えてください。あなたに万が一のことがあったら大変ですから」
「そうだそうだ!」
追い打ちをかけるように横から同調してくるオルガー。
「ここらを守るのは俺らの仕事だ。おまえも大人しく家の中に隠れてろ!」
毎晩、彼らが駆り出される日はわたしも外に出るようにしていた。
自身の力を試す絶好のチャンスだからだ。
直接自身が魔力を使う際は左肩が焼けるように痛くなるのに比べ、あらかじめ何かに力を込めた場合は身体に影響が少ないことを知り、小さな一歩ではあるものの少しずつ少しずつ戦闘時の場馴れをしていきたいと思っている。
怖がってばかりではいられない。
そのため、なんだかんだで毎日のように顔を合わすようになったオルガーは自身の髪の毛以上に顔を赤らめわたしに苦言をしてくることが増えた。
だけどわたしは気にしない。
もう少し。
もう少し、できるだけ早く強くなりたいと切に願う。
来年なんてあっという間に来てしまうのだから。
だけど、やはり限界があるのも事実だった。




