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モブキャラが生きる未来

 はぁぁぁぁー、と何度目になるかわからないため息をついてカウンターのデスクに突っ伏す。


 もやもやもやもやもや。


 いくら考えたって同じなのに、ひとりでありとあらゆる最悪な可能性ばかりを想像して絶望を繰り返していた。


「そんなに舞姫の練習は苦痛?」


 クロエ姉さんとジョセフィン姉さんが笑いながらやってくるのが見えた。


 両手に山ほどの衣服が積まれたかごを持っていて、まだあるのかと目を見張る。


「苦痛じゃないわ。感謝してる」


 そう。これは本当だ。


 収穫祭という大切な儀式に向けて初めて与えてもらった大役だ。


 大切な家族に囲まれて、変わらず暮らすことが叶うこの街にその感謝の気持ちを込めて自分も何かできるというのはとても誇らしいことだと改めて思わされた。


 こんな機会をくれたテオにはとても感謝している。


「なかなか体験できることでもないし、頑張りたいとは思っているの」


 立っているだけでもよく目立つ美しい容姿で、妹の目からも自慢な姉さんたちは毎年誰かが舞姫に選ばれていた。


 もちろんわたしのようにはしっこにいるわけでもなくセンターという素晴らしいポジションを与えられたりして、舞姫に選ばれるということはあまり我が家では新鮮味がある話題ではないのだけど、それでも自分には無縁の行事だと思い続けていたため、彼女たちと同じように舞えることがやっぱり嬉しく思えた。


「テオルドもすでに後悔しているころよ、きっと」


「………」


 姉さんたちの楽しそうな声に唇を噛む。


 本当に今さらだ。


 わかっていたことなのに。


「テオルドの場合、アイリーンしか見えていないから気にしないんじゃないかしら?」


「それもそうね。舞っているアイリーンが見られたら満足なのよ、きっと」


「それ、言えてるわね!」


「ど、どういうこと?」


 人の気も知らないで姉さん達はふたりで目を合わせ、ふふっと意味ありげに笑った。


「舞姫ってめちゃくちゃモテるのよね〜」


「そうそう。テオルドはこれからは警護の準備とかもあってどんどん忙しくなるだろうのに、大切な大切なアイリーンのそばにいられないなんて大変だなぁと思って」


「あ、でも送り迎えは意地でもこなしそうよね」


「昨日も鉄壁のガードだったらしいしね」


 ずいぶん面白がっている。


「か、からかわないで。きっかけはどうであれ、受け入れたのはわたし自身だし、テオにはこれ以上迷惑はかけられないわ」


 心配されなくてもひとりで十分にやっていけると思われたいのに。


(そのためにも今日のノルマは集中して終わらせなくっちゃ)


 意気込んで頷くわたしの両頬に姉さんの温かい手が添えられる。


「自信を持って、アイリーン。あなたにはたくさんの可能性があるの。自分でその機会をつぶさないで」


 いつも言われるのだ。


 自信を持ってって。


 そんなに簡単なことじゃないのに。


 自分が語られることのないキャラクターだったのだと知らなかったら、もっと前向きに生きられたのかしら。


 ううん。考えたって無駄よ。


 今この時を生きているということは、この未来はわたしにとって来るべく未来だったのだから。


 ああだったらこうだったらと今さら考えたって始まらないわ。


 わたしはわたしのできることをする。


 しなきゃいけない……そんな気がする。


「ありがとう、姉さん」


 努力するわ、と伝えたらほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。





 

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