魔物に狙われた街
「そっちへ行ったぞ!」
けたたましい声が聞こえ、震え上がる。
そっちとは、間違いなく、わたしのいる方向のことだ。
少しずつ大きくなる足音と普通ではない息遣いが徐々に近づいてくるのを感じ、自分の体が爆音を奏で続ける心臓に乗っ取られたのかと思えるほど大きく揺れる。
歯を食いしばらなければ涙が溢れ落ちそうだ。
怖くて怖くて仕方がない。
祈る思いであらかじめ曲がり角に垂らしておいた化粧水の水滴を眺める。
その成分には起爆処置が施されている。
起爆といっても、わたしの魔力を含んでいるだけなので、ほんの小さなものだ。
それでも足止めくらいならできる。
ぐっと踏ん張り、目を見張る。
お願い、お願い、どうか……。
無理なら逃げればいい。
その存在が角に差しかかったときにでもすぐに走り出せば、きっと逃げ切れる。
大丈夫。絶対だいじょ……
「ぐあああああああああーっ!!」
そのとき、目にも止まらぬ速さでそいつらやってきた。
悲痛な叫び声もお構いなしにまわりの人間を弾き飛ばし、一気に距離が縮めてきたのだと全身で悟った。
もう少し後方にいるとばかり思っていたため、思わず腰を抜かしそうになる。
逃げ切れるだなんて、よくもまぁ言えたものだ。
少しずつ崩壊されていく周りの景色をゆったりそいつを眺め、ぼんやり思う。
ああ、もうだめだ……。
そう思ったとき、そいつの足元から粒子が飛び散り、溢れんばかりの光があふれた。
そうよ。負けてなどいられない。