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名もなき乙女の試練

「アイリーン、聞いたわよ! 舞姫に選ばれたそうじゃないの〜 おめでとう!!」


「あ、ありがとうございます」


 テオが帰ってすぐに、お向かいに住むジェム夫人がわざわざ激励の言葉を伝えにやってきてくれた。


「ああ、わたしもあと数年……あら、言い過ぎね。数十年若かったらあなたと一緒に舞うことができたのに」


 なんでも彼女もかつては舞姫のひとりだったらしく、その思い出話を永遠と聞かされた。


 たしかに今でも自信たっぷりで凛々しく、そしてたくましい彼女の様子はそのころに培った賜物なのかもしれない。


「まぁまぁ、アイリーン!! 今年はあなたの舞姫姿も見れるだなんて、夢のようだわ」


「せ、精一杯頑張ります」


 ジェム夫人と入れ違うようにやってきたフォーガトン夫人とエルガー夫人も声を高らかにして激励を贈ってくれた。


「娘のように思っていたアイリーンよ。ああ、わたしまでとても嬉しいわ。ますますうちのカロルの元へ嫁いできてほしいわぁ」


「あら! アイリーンはうちのハリソンの元へ来てもらうのよ」


「はぁ……」


 舞姫をこなし、フォーガトン家もしくはエルガー家へ嫁ぐなんて、わたしは一度にそんな大役をふたつのことはこなせない。


 そしてそんなこと、カロルやハリソン自身が反対するであろう。


 悲しきかな彼らはわたしを見るなりなぜかすごい形相で逃げていく男子たちだ。


「ああでも、テオルドがそんなことを許さないかもしれないけど」


「たしかに、鉄壁のナイトよね」


 テオルドの大切なお姫様だもの、とフォーガトン夫人とエルガー夫人は顔を見合わせてクスクス笑う。


「そ、そんなことありません」


 そんなこと……あればいいのに、なんて思うのはわたしの心が未だに未熟だからで、ただただ続く言葉に困って思わず口ごもる。


 それからもわたしに対する激励の言葉は続き、さすがに作り笑いも限界を感じ、絶対にテオにはそれなりのお礼をしてもらうんだからと改めて意気込むこととなる。


 心がどうも落ち着かないため、先日ラベンダーのお花で作ったサシェを取り出す。


 ぐっと左手を胸に当て、目を閉じると今まで見たことのない世界が広がる。


 大丈夫。


 穏やかな香りはわたしをまた静音で穏やかな世界へと導いてくれる。


 うん。大丈夫よ。


 気を取り直して、わたしはまた母さんがたんまり持ってきた大量のかごに向かって手を伸ばしたのだった。

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