第1話
紫の淡い光と青い炎の影に包まれた空の下で、魔王リリス・ノクターンは退屈そうにその壮麗な玉座を見つめていた。数十万年もの間、魔界を支配し続けてきた彼女は、もう疲れ果てていた。挑戦もなく、驚きもなく、すべての者が彼女に従い、彼女の力は無敵だった。
「こんな生活が続くなら、退屈で死んでしまいそうだわ。」
壁に掛けられたカレンダーを一瞥しながら彼女は呟く。時間を確認するためではなく、何か面白いことが起こるのをあと何世紀待てばいいのかを数えるためだった。その時、ふと彼女の頭にある考えがよぎる。
「人間界に行ってみたい。」
突然の発言に、周囲のモンスターや悪魔たちは困惑した。
「どうしてですか?リリス様が人間界に行くなんて、まさか退屈だからですか?」
魔王の第一補佐であり宰相でもあるヴァシリーは、その言葉に頭を抱える。しかし、リリスは頑として譲らなかった。
「魔界なんてつまらないわ。私は何十万年も生きてきて、毎年同じ生活の繰り返しだった。新しい環境で、違う空気を吸いたいだけよ。とにかくヴァシリー、私がいない間は全部よろしくね。」
リリスは玉座を下りて歩き始めるが、ヴァシリーが慌てて声をかけた。
「お待ちください、リリス様!魔界と人間界は全く別の世界です!そんな簡単に行けるものではありません!」
「もちろん分かっているわ。だって私が魔界と人間界を分けたのだから。」
その言葉にヴァシリーは驚愕する。
「初耳です……どうしてそれを今まで教えてくださらなかったのですか?」
「だって聞かなかったじゃない。」
「リリス様がいなくなったら、この魔界を誰が支配するのですか?」
「休暇中はあなたに任せるわ。」
リリスは玉座の前に立ち、呪文を唱え始める。
「次元を越える魔法、発動!」
こうして、魔王リリス・ノクターンは最強の魔王でありながら、人間界へと旅立ったのであった。