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とある狐守の滑稽な日常②


 いや、それはだめだって。そのタイミングで声をかけてくるのは絶対だめだって。

 ヤッホーの要領で手でメガホンまで作った気合い十分な呼びかけを途中で邪魔されてどうしていいかわからずに固まっている今の俺の気持ちになって考えてみたらわかるから。本当に申し訳ないことしたって心の底からわかるから。



「筒井、おーい?」

「……登場がいつもいつも唐突だっつっても流石に限度があるわ、在里(ありさと)お前!! どこにいた!」

「そこの柱の裏。いつ話しかけようか、ずっと迷っててさ」

「そのままずっと迷ってろ! なんでよりにもよって今をチョイスした!」



 在里が指を差した先にある柱は、俺が背にしている3号館側にあり、ちょうど死角になっていた。自分のうっかり具合を呪うと同時に、なんでこいつはそんなとこにいたんだと、たぶんに八つ当たり気味な怒りが湧いてくる。まあ、それが照れ隠しからくるものだということは自分でも承知しているので、その苛立ちはひとつの溜息とともに簡単にどこかへいってしまったが。



「悪い悪い。きょうも探し物か?」



 あくまでも純粋に、どこまでも爽やかに、そいつは笑う。

 おそらく、新緑の季節の風とか、水面に反射する光とか、そういう穏やかさの象徴みたいなものをひとつにまとめて丁寧に細工を施せば、こういう人間ができあがるんだろう。


 それが俺の、在里颯真(ありさとそうま)に対する印象だ。端的に言えば、俺とは住む世界が真逆な人間。学校の端と端、対角線上にいるような存在。同級生ではあるが、クラスは違う。当然、接点などないから会話をする理由もない。ないはずだ。


 にも関わらず、こいつは今のように簡単に話しかけてくる。



「手伝う?」

「だからいらねーっていつも言ってんだろ、帰れ帰れ。ってか、お前、部活じゃないのかよ」

「ああ、うん。今日は、ちょっとな」



 放課後に遭遇するときは、こいつはいつもジャージを着用していたと思ったが、今は俺と同じ夏仕様の制服だ。部活自体が休みなのか、それとも単純に在里がサボっただけなのか。後者であれば、らしくないとは思うが、どちらにしても、そこまで興味はない。


 むしろ、暇な在里が、このままずっとここに居座り続けてしまう可能性が高まったことに焦りを感じた。探し物に対して呼びかけるという手段が使えないまま、今この瞬間にもバスの発車時刻はどんどん迫ってきている。とにかく駐車場のあたりに絞って探し始めようと、俺は在里を放置し、ある程度の距離をとってから捜索を再開した。



「懐かしいな。俺も見てたよ、ヤイバーマン」



 急に何の話を始めたのかと、眉をひそめながら在里を振り返れば、奴の視線は俺の手元にまっすぐ注がれている。今更ながら、そこで俺は自分がずっと水筒を持っていたことに気付いた。


 子どものおもちゃのような水筒を、バトンのごとく片手で大きく振りながら廊下を全力ダッシュする男子高校生。それはそれは、傍から見れば口をぽかんと開けたくもなるような、さぞ異様な光景だったことでしょう。



「刀で戦うのが、かっこよかったよな。友達と一緒に傘を振り回してたら、危ないだろうって祖母に怒られた」

「意外。お前でも、そんなことすんのな」



 車体の下を覗き込み、タイヤの上を確認しながら、俺は適当に返事をする。俺とは住む次元が違うような爽やかイケメンでも、俺と同じものを見て、俺と同じようなことをして遊んでたのかと思うと、なんともいえない妙な感じだ。



「筒井は、やっぱりヤイバーレッドが好き?」

「やっぱりってなん……ああ、コレか」



 そういえば、赤だったか。片手に持っていた年季の入った水筒が、ヤイバーレッドの象徴色を基調としているのを確認して、俺は納得する。



「どうだったかな、忘れた」

「弱気を助け強きを挫くっていう、これぞ主人公という感じの熱いキャラだったよな、レッドって。お人好しすぎて見ていてハラハラすることもあったけど、決めるところはバシッと決めるのが本当にかっこよかった。なんだっけ、あの必殺技……ええと、さ、ささくれ――」

「灼熱紅蓮乱舞鳳凰斬な。次、間違ったら泣かす」



 やばい。在里の熱い語り口に乗せられて、ついつい当時得た知識を食い気味で披露するどころか脅しまでかけてしまった。まさか今の一言で、毎週テレビにかじりつくようにしてヤイバーマンを見ていた俺の幼すぎる過去がバレるようなことはないと思うが。



「そうそう、しゃくねつぐれんらんぶほうおうざん。俺もよく真似してた覚えがある」

「本当かよ。その言い方は絶対に漢字で書けないやつだろ。……まあ、確かにお前はレッドが好きそうだよな」



 正統派なヒーローを体現したような在里なら、当然、同じような人物を好きになるだろう。根拠の薄すぎる見解を適当に飛ばしながら、駐車場脇の茂みの辺りを覗き込む。マジでどこに行ったんだ、あいつは。



「俺? もちろん、レッドもブルーもグリーンもホワイトもゴールドも好きだけど、一番はブラックかな」

「ブラック!?」



 ちまたではクールで通っているに違いない俺が思わず上擦った声を上げ、あれほど急いでいた捜索の手もぴたりと止めて、思いっきり力を込めて振り返るくらいには、その返答は意外だった。



「ブラックって、あのブラックか? 陰気で根暗で無口で無愛想で協調性が皆無でいっつも単独行動をしていたから視聴者にまで不審がられて最終話寸前までラスボス疑惑をかけられていた、あのブラ――」

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