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すべて終わって店の外に出ると冷たい風が真正面から吹いてきて、「外に出るな」と町から助言されているような気がした。外にくらい出させてくれ。俺が若干の青春を感じたからってその場所にとどまって何とか青春に浸り続けるなんておかしいだろう。
肌寒いのは嫌だが、かといって上着を着る気分にもならない。月明りはとても明るくてきれいだった。空気も澄んで、乾燥しているのがまた良い。完全な冬の天気。俺が大好きな天気だ。
「いらっしゃいませぇ」
ダルそうなコンビニ店員の声とにゅうてんBGMの妙なハーモニーを楽しみつつ、お酒コーナーに向かう。妙なハーモニーで言うと今日行ったステージのハーモニーはとてもじゃないが普通じゃなかった。ちょっとガタついているように感じたが、でも心地よい不思議な感覚を得たのだ。
「ありがとうございましたぁ」
店員のダルそうな声とともに外に出たときには真正面からの風もなんだか別の意味に案じて変な気分になった。ウィスキーの小瓶を一人で買っているのを変な目で見られたからだろうか。まぁだからといって買うのをやめる気には全くならなかったが。
川辺にたどり着くまでの間にも酒を開けて飲み始める。喉を通る感覚が上の方から下に落ちて行くところアでずっとある、サーモグラフィーで見たらきっと俺の口から喉にかけてだんだん赤くなっていくのが見えるのだろうと思ってしまうほど明確に熱いものが通り抜けるのだ。この熱さは感覚だけなのにすぐに体はあったまる。酒は不思議だ。歩きながら寒い日に歩きながら飲む酒は不思議とうまい。だから今日みたいな感傷に浸りたいときは飲んでしまう。
水辺だとなお感覚的に気分がいいので川まで歩いて、川の脇を静かに歩き始める。あのライブを見た今日の自分は昨日と何か変わっただろうか。何も変わっていないような気がしてならないがそんな今も割と気に入っているのはなぜだろう。
「青春してるじゃん」
彼女だった。月明りに照らされて白い肌が輝いて見えて、美しいという言葉の意味を心で理解した。
「青春してませんよ」
反射的に答えたが頭の中は彼女のきれいさでいっぱいだった。
彼女は深く息を吐いて月を見上げた。その姿を見て彼女の言った『青春している』自分について考える。俺は青春しているのだろうか。きっと彼女は何か別の物を見てるのだろうと思ってしまうほど俺はドロドロしているのに。
「歩こうよ。ウィスキーもちょっと頂戴」
以前俺の目の前から去る瞬間に発した言葉と同じくらいの冷たさでそういった。気温のせいだろう。
彼女の隣を歩いていて気が付いたのは彼女を照らしていたのは街灯で、彼女が美しすぎて街灯の光すら月明りに見えていたという事だった。