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「ここが会場か。」
なんだかんだいってきてしまった。キラキラしてるんだかしてないんだかよくわからん店内にすら場違い感を感じつつその場で一番ひっそりとした場所を陣取った。この陣地とりが日陰者には重要なことを他のやつらはわかるまい。一番の特等席なのにも関わらず誰にも関知されない素晴らしい場所だ。
なんとも静かな雰囲気だがステージがあることで人がそこで演奏するであろうことを想像できる不思議な空間だった。
「隣、いいかな?」
急に話しかけられたとき、人はどんな反応をするのだろう。おそらく驚くだろうが、ここ最近何度か経験があった俺は全くの無感情で振り向くことができた。
「え、あ、はい」
そう。これが俺の無感情だ。我ながらダサいものだ。どもっていたのは俺がダサいからではなく他の驚く原因があったからという事もあるのだが。
「いやぁ、学祭ぶりだね。元気してた?」
あのとき、俺の前から立ち去った美人は何事もなかったかのように、そして長い友達のように話しかけてきた。当然俺は彼女に対して深い恥ずかしさを感じているので気まずい空気を醸し出してまた立ち去ってくれないかと考えていたが。
「一応、元気してました」
「そっか。なんか楽しいことはあった?」
「特には。お姉さんはなんかありました?」
「私は楽しんでるよ。今日も今まで来たことないから来てみたし。というか君はなんでこんなところにいるの? 自発的にこなそう」
明るい声色で、しかしどこか軽蔑を含んだようにそういった。この手の笑いは最初は気が付かないのだが一回気が付くとすぐにそういった純粋でない明るさは気が付いてしまう。
「確かに誘われたからですね。サークルの看板見てたら声かけられて」
「へぇ。そういうのくるタイプには見えなかった」
彼女は興味を失ったようにそういった。前と同じだ。あった直後だけ明るくて、すぐに興味を失ったようにそっぽ向く。前と、というか今までかかわってきた人と大体同じだ。
『今日は皆さん来てくれてありがとうございまーす』
どこか間延びしたしゃべり方で話し始めた彼は、大学であった彼とはおおよそ別人に見えた。オーラがあるとでもいえばいいのだろうか。素朴な雰囲気は全く消えて、ステージ上の人って雰囲気だ。キラキラしているなぁ、としみじみ思ってしまう。
彼の曲を聴きながらぼんやり酒を飲んで周りを見渡していると彼女と目が合った。多分女の子からしたら気持ち悪いだろうが、思わせぶりだと思った。まるで、じっと俺の方を見ていたんじゃないかと感じてしまう。そんな目だった。
「ねぇ、君飲んでるの何?」
彼女は一言そういった。自然体でキラキラした目で。自分に興味を持ってもらえた気がして嬉しかった。憧れとでもいうのだろうか。彼女の所作すべてにあこがれを抱いてしまう。
「ジントニックです。ジン、好きなんで」
「へぇ、いいじゃん。私ものもっかな」
彼女はそういうと、また視線をステージに戻して彼女のグラスを口に運んだ。
孤独っていうのは不思議なもので、きまって騒がしい中に一人でいるときに感じるものだ。世界の中で一人きりなんじゃないかと思ってしまって、どの輪の中にも属していない自分が悲惨に見えて。
でも彼女といるときは不思議と自分だけの世界じゃなくて、彼女と自分の世界があるんじゃないかと錯覚してしまう。モノクロの世界の中で自分だけが色づいていた。それが孤独だとするのであれば、俺と彼女は色がついて見える。そんな風に変わったような錯覚をした。
でもこれが実際とは違っていることもまた痛いほどわかる。カラーで見える人がもしも何十人といたならば、きっとそれが青春なのだろう。