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学祭も終わりいつまでたっても来ない冬に腹を立てつつ汗だくになりながら歩く道はいつも渋滞している。道幅が狭いのと、学生が広がって歩くお決まりのやつをやっているからという二つの理由があるのだが、青春コンプだから目の前を歩いてる集団が邪魔に思っているだけな気がしている。
多分こういう風に集団になっていると学食でも邪魔なんだろうなぁ。というか学食使ったことないからわからないわ。なんてことを徒然なるままに脳内実況をしていたら大学についた。静かに図書館に向かっているとポスターが大量に貼ってある掲示板を見かけてつい立ち止まった。
「サークルってこんなにあったんだな」
ぼそっとつぶやいてから周りに人がいないかを確認した。いつも通り人がいなくて一安心していると、俺のどうしようもないダジャレセンスを軽蔑しているかのような視線を感じた。
遠くから俺を見ていたのは中肉中背、黒髪でアクセサリーを大量につけている男だった。こいつも青春したいんだなぁ。というか主に女の子にもてて青春したいんだろうなぁ。などと心の中でバカにし返して、大股で立ち去った。
そもそも人の心を読んで『ダジャレ言ってるキッモ』とか軽蔑するのは怖すぎる。本当に怖い。もはやホラーだ。
「あの、すみません」
急に話しかけられた。気がした。しかし大学に友達も知り合いもいない身からすれば話しかけられる確率は極小なのでいつも通りスルーを決め込む。ただしこれは本当に便利で基本的に話しかけられた時の対処法としては正しいのだ。
「あの!」
後ろから肩をたたかれてようやく自分に話しかけていたんだなと気づく。気づくというか自分じゃないよな。と言い聞かせていたのをやめたといったほうが正しいかもしれない。我ながら本当にめんどくさい奴である。
「何でしょうか?」
「さっきサークルのやつ見てましたよね」
「え、はい」
「もしよかったら、これ見に来てくれませんか?」
さっきの黒髪はどうやらバンドマンだったようだ。ギターケースを持って俺のほうまで走ってきたようでちょっと肩を上下させていた。彼が見せてきたスマホに映っていたのはどこかのカフェでやるという彼の一人ライブというのだろうか、演奏もできる場所で弾き語りをするようだ。
「え、なんでですか?」
「なんでって、さっき見てたからもしかしたら音楽とか興味あるのかなって思って!」
彼を心の中で冷笑してたのが透けているんじゃないかと不安になりながら話していたら彼はだいぶ青春ド真ん中を過ごしているようだった。このちょっとした引け目が彼の見せてきたライブに行くという約束をしてしまった自分につながったのは間違いないだろう。
「じゃあ、当日絶対きてくださいね! 来てるか探しますよ!」
こんなにマイルドな『顔覚えたからな』も初めての経験だった。