私を見ていて
「いらっしゃいませー! あ、そこのイケメンのお兄さん! あなたですよ! お兄さん焼き鳥食べてきませんか? 安くするから! どう……あ、おにいさーん」
遠ざかっていく声とは裏腹に大きくなっていく音。メインステージが近づいているから当然っちゃ当然だが、ヘッドホンをしてノイキャンを全開にしたい気分に駆られてしまう。
なんで俺は学祭なんかに来ちまったんだろう。こんなにキラキラした青春を見せつけられることくらい、こんな最悪な気分になるくらい簡単に予想できただろう。数十分前に髪の毛をセットしてた自分は本当に何をやってたんだろう。別に誰も俺のことを見たりしないのだってわかってたのに。
「つれえな」
ぼそっと一言つぶやいた。口からこぼれ出たといったほうが正しいだろうか。でも、帰りたいという感情は言葉として口から出てこなかった。という事はそこまで帰りたくはないんだろう。でもまあ帰りたい。つらいものはつらいし、キラキラしてる人を見てると自分がドロドロしてる感じがして悲しくなる。
思えば最初から逆張りしないで全部楽しんでたら最高の思い出もたくさんできてたんだろう。サークルに入るのも、高校のときの文化祭も。全部、まあいいかって感じで流してたからそんなに好きになれなかった。
ありがちな青春イベントの一つも起きないし、世界は本当に普通だ。その辺の交差点を歩いててもパンを加えた女子高生とぶつかることもなくて、曲がった先でじいちゃんが犬を散歩させてる。何ならかわいいなって犬を見てても吠えられることもなく無視されてちょっと悲しい、みたいな普通の日常だ。
路地裏に咲いてる花も綺麗だよ。なんて誰かが言ってた気がする。小学校のときの担任だろうか。確かに花は綺麗だったけど、俺は花じゃなくてシダ植物で綺麗もへったくれもない、無関心の化身みたいな植物だったんだよな。
そんな俺は空いている場所を見つけるのが得意で、結構中心なのに座れる場所を発見した。座って俯瞰で見てみるとやっぱりみんな楽しそうだ。青春してるって感じで。俺もどこかでそういう青春を見つけたいものだ。
でもそんな青春ももう終わりだ。今年までがタイムリミットってやつで、来年からは青春だなんだって言ってられなくなってしまう。悲しいかな社会に出てしまうってことだ。
大人になるまでに遊びたかったな。楽しい学生生活を、キャンパスライフを送りたかった。みんなで徹夜して準備して、合宿して、はしゃいで、喧嘩して、でも結局仲直りして完成させて、今こうして発散している。
世の中の後悔の中でも俺のしてる後悔なんて小さくて顕微鏡使わないと見えないくらいの物だろう。でもその小さな後悔が重くのしかかって辛いのだ。
「何してるの?」
「……俺ですか?」
隣に急に座ってきた女性を見て驚いた。隣に座っていたのはとびきりの美人だったのだ。