第4話 1日目の夜の終わりは激しい戦い
「あら、そうですか。少し早起きしてしまいました」
そう言って、カナリアは俺の隣に座った。
「どうして、隣に座るんだ?」
「ダメでしたか?」
「い、いや、別にいいけど」
メシア教の聖女ってすげぇ神聖視されるから、できれば近づきたくはないんだよな。メシア教ってただでさえ、過激なのに。
「ルディー様はメシア教が公開した予言を信じていますか?」
「予言?…………あ~あ、チェスの予言のことか」
「はい…………」
【天と地の狭間にて、七人の魔王が現れ、世界を滅ぼさんとする。七つの星がつよく光るとき、七人の勇者が現れ、世界に光をもたらす】
これがチェスの予言。約100年前、突然現れたチェスが残した予言で、この情報はずっとメシア教が隠していた。その事実は皆が知るところであり、現在、各国が七人の勇者を探している。
「それはもちろん、信じてるよ。だって実際に勇者はすでに3人も見つかっているからな」
その返答にカナリアは少し驚いた表情を見せた。
「そうですか…………なら、いいんです」
「その予言したチェスって一体何者なんだろうな。メシア教の信者でもないのに、メシア教に予言を残して去っていくなんて、きっと只者じゃないよな」
実際にメシア教もチェスの正体は分からないと供述している。
「二人とも、何の話をしてるの?」
「アストレア!?」
「あら、勇者様、お休みになられたのでは?」
「う~~ん、起きちゃった」
「起きちゃったって、しっかり寝ろよ」
「しょうがないじゃん、起きちゃったんだし、それで、二人で何話してたの?」
「あ………それはな——」
そう言葉にしようとしたとき、カナリアが遮るように口にした。
「ルディー様と勇者様、どちらが強いのか話していましたっ!」
少し強気な言葉で返すと、アストレアはにっこりと笑った。
「そんな話してたの?へぇ…………ねぇ、ルディー、どっちが強いかな?」
「え、あ、いや、それはもちろん、アストレアだろ。剣聖の家系だし、それに勇者だし」
「でも、それってあくまで称号、ただの飾りだよ。実力は戦ってみないとわからない。というわけで、今からどっちが強いか証明しようよっ!」
「それはいいですねっ!ちょうど、ルディーさんの戦い方を見てみたかったところですっ!」
「え、ちょっ、二人共っ!?」
アストレアとカナリアはかなりやる気のようだが、俺はごめんだ。だって、勇者と戦って俺にメリットがない。
「では、さらに強めの結界を張りますね」
「よろしくっ!カナリアちゃんっ!!」
「勝手に話が進んでいく…………」
気づけば、結界の中にさらに小さな結界が張られ、アストレアはウキウキしながら、中へ入っていった。
「ルディーっ!早くっ!!」
完全に勇者と戦う流れになった今、俺に拒否権はなく、渋々結界内に入った。
「ルディー、手加減はいらないからね」
アストレアは鉄剣を構えた。
さすがに、聖剣は使わないかとほっとするが、相手は剣聖の家系、レイス家だ。剣を手に取れば、最強と言われるほどだ。手加減なんてしてみろ、大けがするに決まっている。
全力で防御する。それが、俺に与えられた唯一の選択肢。なら、俺が選ぶ武器も一つだ。
「まさか、勇者様、相手に剣ですか?」
カナリアは驚愕していた。なぜなら、剣の勇者相手に、剣を持ったからだ。
「私に剣で勝負するなんて、さすがルディー」
「これが一番いいと思っただけだ」
防御するだけでいい、防御に全神経を集中させるんだ。
「それでは、私が合図したら、勝負開始ですよ。では、勝負開始ですっ!!」
カナリアの合図が出た瞬間、俺の視界からアストレアが消えた。
くるっ!後ろだっ!!
俺は、考える間もなく、後ろに剣を振りかぶった。すると、剣が重なり合う金属音が鳴り響く。
「うそ…………」
「アストレア、癖が抜けてないぞ。最初に後ろを狙う癖が」
「さすがだよ、ルディー。それじゃあ、今度は剣聖の剣技を見せてあげる」
アストレアが距離を取ると、武神のオーラを感じ取った。
「【剣聖・瞬閧】」
またもや視界からアストレアが消えた。でも前とは違って、後ろから気配がしない。いや、そもそもこの場から一切気配を感じない。
すると、一瞬だけ、死角から刃先が移った瞬間、俺の視界は暗転し、そのまま勢いよく吹き飛ばされて、体を思いっきり結界にたたきつけた。
「いてて…………な、なんだ今のは」
「うそ、今のよけたの?」
たしかに気配はなかった。でも、ほんの少しだけ死角から刃先が移った。その瞬間、体が反射的に後ろへ吹き飛ばしたんだ。
運が良かったといえば、良かったと思う。
ただ、この技は完全に。
「人離れしてるな」
アストレアは今の技をよけられて、驚愕しているが、次よけられる気がしない。あの技は完全に死角をつく超人の技。
「すごいよ、ルディー。今の剣技、誰もよけれたことないのに!!これなら、あれも試せるよっ!!」
「え、ちょっと待ってっ!」
「【七星剣・グランローゼ】」
それを口にしたとき、アストレア・レイスの後ろに一瞬、七つに光る星を見た。それは強く輝き、光は剣に収束した。
その剣技は遅いようで、早く光の速度で振りぬいた剣技は認識したころには、俺の胸元へと届いていた。
あ、やばい、死ぬ。
直感的に感じた死の直感はとても鮮明で、体もよけることはできないと悟っていた。でも、それでも、人間が持つ生存本能が生かそうともがく。
「七せ———」
俺が口ずさもうとしたその時、まぶしい光が視界を包みこんだ。
「そこまでです、勇者様。それ以上やりすぎると、ルディーさんが本気死んでしまいますよ」
「カナリアが守ってくれたのか」
アストレアが放った剣技は円状の結界によって防がれていた。
これが、カナリア・メシア。メシア教の聖女の力か。
「ご、ごめんねぇ、ルディー。ルディーなら止められると思ったの」
「全然、大丈夫だ。ケガしてないし、それにカナリアが守ってくれたからな」
「本当にごめんね」
泣きそうな顔つきのアストレアを俺は頭を撫でて慰めた。まさか、この年になって、女の子の頭をなでることになるなんて、もしアーカシアに見られたら。
考えないようにしよう。
「もう明日に備えて、寝よう、アストレア」
「うん…………」
相当申し訳なく思っているのか、すごく素直だ。
…………猫みたい。
「って、そろそろ交代時間か、それじゃあ、あとは頼んだぞ、カナリア」
「任せてください」
カナリアがどうして、話を遮ったか、気になるところだけど、今はそれよりもシェリー遺跡の調査のほうが優先だ。
こうして、長い1日目の夜が終わった。
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