「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
あいつは天才外科医
あいつは昔からぶっちぎりで天才だった。
成績は常に学年トップ。俺は万年二位で一度も勝ったことが無い。
周囲は双壁といって褒めてくれたが、残念ながら俺は天才じゃあない。二位といっても埋められない差があることは自分自身が一番よくわかっていた。
常に比べられ負け続けることにうんざりした俺は、あいつから離れることにした。わざわざ遠くの中学を選んで進学したんだ。
ところが、あいつはどうやって調べたのか、俺について来やがった。
中学だけじゃない。高校そして大学まで同じところ。
俺からすれば完全に嫌がらせレベルだが、本人に悪意が無い以上、責めることも出来やしない。
だが俺だっていつまでも同じ轍を踏むほど馬鹿じゃあない。あいつが外科医になることを知り、俺は内科医の道を選んだ。常に比較され、負け続ける人生なんて真っ平御免だからな。
ちょっと待て。なんで同じ職場にお前がいるんだ? 偶然だね? そんなわけあるか!!
あいつはすぐに頭角を現して、天才外科医、ゴッドハンドと呼ばれるようになった。まあ大学時代の論文がすでに新しい術式として世界で認められているのだから、今更驚きはない。
俺も気が付けば天才内科医とか神の目とか言われるようになったが、あいつに負けまいと死に物狂いで努力した結果であって、決して才能ではないんだよな。
医師としての二年目、医者の不養生とはいったもので、俺は病に倒れた。
手術をしても成功率は10%以下。
だが、あいつは成功させた。まったく天才って奴はこれだから……
一生返せない借りが出来てしまったな。
リハビリ中、あいつがやってきた。
話によると深刻な病に冒されているらしい。そんな状態で手術を成功させたのか? 無茶しやがって。
え? 俺が主治医に?
わかった。いくら天才でも自分のことは治療できないからな。
早く回復して絶対に俺が治してやるから。
それで症状は?
眠れなくて食欲もない? ため息が増えて精神的に不安定……と。
は……!? 恋の病!? お前ふざけんなよ? 心配して損したじゃないか!!
「ふざけてなんかないわ。だって貴方にしか治せないんだから」
「……お、お前っ、それどういう意味……」
鼓動が早くなる。身体が熱を帯びる。
恋の病……どうやら俺も感染してしまったらしい。
あいつは天才外科医。俺は一生頭が上がらない。
夫婦となった今でも変わらない。
作/四月咲 香月さま
「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」の大賞ノミネート作品に選ばれました~(≧▽≦)
下野紘・巽悠衣子さまに番組内で朗読していただきました(2023,03,17)
最高の時間をありがとうございます。
なお番組はYou Tubeにある小説家になろうラジオ公式アーカイブで聞くことができます。【第233回】です。ぜひ聴いて見てくださいね(´艸`*)
アドレス https://youtu.be/ylGeg7BJEN8