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9 二人の関係


 まさか笑われるとは思っていなかった。けれどだんだんアルノルドが笑っていることがおかしくなってきた。完全につられた形で、どんどんジルベルタの表情も崩れていく。たまらずジルベルタも吹き出した。

 そのまま二人して腹を抱えて笑う。離れたところで困惑している様子の護衛もいる。そのことがさらにおかしく感じて、とにかく二人は声を出して笑っていた。

 しばらくして、アルノルドが「はぁ」と息をはきだす。

 

「こんなに笑ったのは久しぶりだ」

「笑いごとじゃないって言ってるのに!」

「君だって大笑いしてたじゃないか」

「アルノルドが笑うからでしょ!」

 

 ジルベルタはため息をついてから、なんとか落ち着いて呼吸をすると、笑いすぎて出てきた目尻の涙を拭った。

 

「へんなの……笑い話になってしまったわ。私、結構気にしてたのに」

「不快だったか?」

「いいえ、なんだかすっきりしちゃった」


 ジルベルタは大きく破顔した。

 アルノルドが安心したように笑う。


 ――もしかして、元気付けようとしてくれてわざと笑い話にしてくれたのかしら。


 そうだとしたら、なかなか策士だなと、ジルベルタは思う。けれど、考えてみれば昔からアルノルドはどんなことでも笑い話にしてしまうような人だった気もする。

 ふと思い出した。

 戦争へ行く前にジルベルタが「無事で」と伝えた時、アルノルドは笑って「らしくないな」と言ったのだ。それでいつものように笑いながら喧嘩のような会話をして、いつも通り別れた。悲しい気持ちはそれでなくなってしまったのだ。


「変わらないんだから」


 ジルベルタは小さな声でつぶやいた。


「それで?」

「え?」

「いや、子爵邸に帰ってきたのは一時的なものなのか?」

「まさか……。浮気されたのよ。しかもわけわからない理由で。もともと恋していたわけでもないし……」

「……じゃあ」

「ええ、離縁しようと思ってるの」


 もはやリベルトにはなんの未練もなかった。

 すっかり気分もよくなったし、すっきり離縁できるとジルベルタは思った。それもこれもアルノルドのおかげだろう。


「明日には、離縁の書類を私から送ろうと思うわ。もうさっさと自由になってしまいたいもの」

「借りがあるんじゃなかったか」

「それはもう返し終わったのよ」

「子爵がやったのか? すごいな」

「私がやったのよ」

「君が?」


 アルノルドが驚いて目をみはる。ジルベルタはいたずらげに微笑んだ。


「失礼ね。これでも商売の才能があるって言われてるんだから。結婚してから3年間、何もしてなかったわけじゃないのよ」

「なるほど。ジルベルタも成長したんだな」

「ちょっと上から目線じゃない?」

「まさか! 純粋にすごいなって思ってるんだ。情けなくなんかないじゃないか」


 言われてジルベルタはハッとした。そういえば、彼の3年間を想像して、一人で自分が情けないとしょげていたのだった。目の前で泣いてしまったジルベルタのことをちゃんと気にしてくれていたらしい。


 ――ああ、優しいところも変わってない。なにもかも昔のままだわ。


「じゃあ、俺と結婚するか?」

「そうね……」


 

 ――…………。


 

「………………え?」


 ジルベルタは驚いて顔を上げた。

 


 

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