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2 美しすぎる貧乏令嬢 


 高価な調度品で囲まれた自室にジルベルタはいた。


 薄いプラチナブロンド。髪と同じ色のまつげに縁取られた瞳の中には新緑のようなグリーンの瞳が収まり、光を帯びて鮮やかに輝く。薄い紅の引いた唇は小さな薔薇のように存在を主張し、白い肌をより引き立てる。

 誰もが見惚れるほどの容姿。しかし今、ジルベルタはその美しすぎるほどの相貌を不機嫌そうに歪めて、カバンにお気に入りのドレスを詰め込んでいた。シワになるかもしれないが、もはやそれに意識を向けられる精神状態ではない。

 イライラとしながら続いてお気に入りのカップとソーサーを突っ込もうとしたあたりで、無言ではらはらと見守っていた侍女が慌てて止めた。


「ど、どうなさったのですか奥様!」

「何も聞かずにいて」


 ジルベルタはぶっきらぼうに答える。

 それから一瞬で無気力になってがくりとうなだれた。

 怒ったり、悲しんだり、自分をあざ笑ったり、かと思えば無気力になったりと忙しなく揺れる気持ちを抱えて、ジルベルタはうつむく。

 しかしすぐに首を左右にふると、顔をあげて再び物をカバンに詰め始める。

 不安定な気持ちをカバンに放り込んでしまえば楽になれる気がした。



 

 ジルベルタが侯爵夫人になったのは3年前のことである。


 もともと子爵の娘であったジルベルタはひどく傲慢な女であった。

 今でこそ侯爵夫人として落ち着いているが、当時はその美貌ゆえに多くの男性から求婚を受けており、それに胡座をかいているような状態だったのだ。

 現在の夫であるリベルト・ロンター二も、求婚してくる数多の男たちの一人だった。

 彼はジルベルタに傾倒し、一族の反対を押し切って求婚してきていた。彼の愛は重いくらいで、それが恐ろしくもあったジルベルタはリベルトとは距離を置こうとしていた。


 ところが3年前状況が一変する。

 祖国が他国と戦争をすることになってしまったのだ。

 貴族たちは裕福でも国に金があるとは限らない。国は貴族たちから軍資金を借りることになった。それがジルベルタの生家では払えない額で、資金を得るためだけに結婚することを迫られたジルベルタは、当然相手を選ぶ事ができなかった。

 求婚してきている貴族の中でリベルトがもっとも高貴な貴族。それで仕方なくジルベルタは彼からの求婚を受け入れたのだ。


 愛しているわけではなかった。

 しかしそれは必要なことだった。

 実際に、ジルベルタの生家は彼の家から資金を借りることでなんとか事なきを得た。


 その後の生活は順風満帆とは言えないものだった。

 夫となったリベルトは求婚してきた時の重い愛のアピールがなんだったのかと思うほどに紳士的だったが、夫婦の営みができないと言うし、国は戦争一色に染まっていて裕福な生活は当然できなかった。豪遊していたのがバカだったと気づいたのもその頃だ。

 

 しかも、ジルベルタは侯爵家から借りた金をどうしても早々に返したかった。

 リベルトから細々と渡される贈り物は、全てこっそり金に変えたし、生家の事業にも積極的に力を注いで、常に忙しく走り回って奔走する。そんなジルベルタを気遣ってか、リベルトは結婚したのだから恩を感じることはないと言ったが、ジルベルタは首を縦に振らなかった。

 人に借りがあるという事がたとえ夫でも耐えられなかったから。

 そのときの衝動が現状を無意識に予期していたからだというなら、驚くべき事だ。

 

 愛していなかった。

 今でも愛していない。

 でも、けれど、情はあった。

 だから虚しさもあるのだ。悲しくはない。ただただ虚しかった。

 戦争が終わって安定した生活ができると思ったばかりだった為、さらに堪えた。


 ――私の3年て、なんだったのかしら。


 時間は戻らないのに、無駄にしてしまった事が悔しかった。


 だから決めたのだ。

 カバンを強引に閉めて立ち上がる。


 ――実家に帰るのよ! いま! すぐ! そして離婚してやる!


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