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番外編「とある護衛の話1」


 

「デニスなら大丈夫よ」


 ジルベルタが言った。

 

「そうは言っても不安になることもある」


 アルノルドが唇を尖らせて答える。

 

「素直なのはいいところだと思うけど、流石にないでしょう」

「そうか? きみ昔デニスと結婚するって言っていただろう」

「あ! こら! それは内緒にしてよ!」


 真っ赤になって叫んだジルベルタがアルノルドの胸板をたたいた。それからそっと横に立っていたデニスをおずおずと見やる。

 さて、仕える子爵の娘であるジルベルタが抱えていた可愛らしい告白は、デニスとしては驚きだが、うれしいことでもある。しかしジルベルタの正面に立っている彼女の次期夫から睨まれるのは、かなりうれしくない。


「ちょっと、デニス、その……子供のころの話だからね」

「はい。わかっていますよ、お嬢様」


 デニスは苦笑いを浮かべて頷いた。

 

 

 騎士には二通りある。

 爵位をあたえられ、その地位を継承できる騎士貴族と、爵位をもたない戦士だ。

 さらに騎士には、国の兵士としての役割を持つ者と、個人や貴族に雇われる者がいる。

 

 デニス・パーゼマンは、とある子爵家に雇われて護衛を務めている。爵位はない。平民だ。子爵の娘であるジルベルタが生まれたころから雇われて、ジルベルタの護衛を長年務めてきた。

 彼女が侯爵夫人として家を出るまでずっと。

 そのため、訳あって子爵邸に戻ってきたジルベルタの護衛は、再びデニスに任されていた。

 正直うれしいことだ。

 今日もジルベルタが街に行くというので、子爵から頼まれてその護衛をしている。

 ジルベルタは子爵を心配性とからかうが、デニスにしてみれば、かつて貴族の子息たちを虜にしたジルベルタの美しさは健在であり、そんな彼女が一人で街に行くことを心配しないほうがおかしいのだ。実際、街の男たちは彼女へねっとりとした視線を向けている。

 彼らの視線をけん制することも、デニスの役目である。護衛でありながら隣り合って歩くのはそういう目的だった。

 そうして街を歩いているときに遭遇したのが、子爵家の隣に居を構える騎士貴族のアルノルド・オルフィーノである。

 彼は、愛する次期妻であるジルベルタが男と歩いていたのが面白くなかったらしく、じっとデニスを睨んだ。ジルベルタを挟んでデニスとアルノルドが立っている。そんな状態で話は思わぬところへ進んでいた。

 

 ――まさかお嬢様がそんなことを思っていたとはなぁ。俺の後をついて歩いた彼女が、そうか、そんなことを思っていたのか。


 ちょこちょことデニスを追いかけていた幼い少女の姿を思い出して、デニスの胸がきゅぅっと音を立てた気がした。それからじんわりとあたたかくなっていく。


 ――ああ、懐かしいな。


「よくデニスを探して歩き回っていただろう。デニスはかっこいいって何度も聞かされたぞ、俺は」

「ああ、もう! だから言わないでってば」

「まだ好きとかいわないよな」

「馬鹿言わないでよ!」

「ほんとかー?」

「ちょっと! 何言わせようとしてるわけ?」

「ばれたか」


 二人のやり取りにさらにデニスは懐かしくなる。


「おい、にやけるなよデニス」


 と釘を刺された。

 その視線の鋭いこと。デニスは一瞬ドキリとする。それは国の英雄となった彼の眼力に僅かにひるんだからでもあったが、もう一つ、懐かしいという気持ちが再び胸裏を占めたからだった。


 ――そういえば、昔からアルノルド様は俺を睨んでいたな。


 デニスは10年以上前のある日のことを思い出した。

 


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