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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第一章 旅立ちから
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■08■ グレネット編 第3話『さすらう冒険者』


 凄腕の冒険者がいる、そう噂されるまでそう時間は必要なかった。

 大樹海最接近の街、ベームベームで旅支度を整えて出発。

 悪神の加護に晒された亜人や魔物の多くは理性も、知恵も半減する。代わりに身体能力が増すのだが、鍛錬や技術の蓄積のない獣に、鋼の種族が負けるはずもない。種族特性に加え、彼等はかつての神代の大戦争を生き残る為に、その技を磨いたのだ。

 彼等の基本は、両足の裏でしなやかに地面を掴み、剣を振るう。相手の攻撃は、両腕か剣を盾にして、いなすか、捌く。たったそれだけだ。

 だがしかし、振るう剣は岩盤の質量を備え、両腕はその岩盤を振るえるだけの膂力と硬さを有している。

 並の相手では相手にならない。

 目の前に立つ小山のような水牛に対し、自在剣を一撃。

 頭の吹き飛んだ水牛は、その場で崩れ落ちた。

 その巨体を引き摺り、監禁の為に冒険者ギルドに持ち込む。

 万事がこんなものだから、訪れた各街で驚かれた。

 灰色の肌に怜悧な容貌をした剣士。

 外套と上下に臙脂色の軽装というだけの男が、並み居る化け物を叩きのめしてしまう。

 気付けば、冒険者の位階は銀の13級、中級冒険者に既に踏み込んでいた。

 路銀は十分、行程にも問題なし。

 宿屋で旅の汚れを落とすと、開いた地図に指を滑らす。

 大樹海を出て二か月が経過していた。

 大樹海から樹海傍のベームベームを翌日に出立し、そのまま諸王国地域、小国が乱立する地域を東へ移動していく。東にある霊峰へ続く砂漠の前、諸王国地域の東側にドワーフ王国はあるのだ。

 ドワーフは幾つかの氏族に別れ、鍛治業を主にする鋼の氏族が国を統治している。この『鋼』の氏族、その名前に、古い友のことをグレネットは思い出すが、さりとてどれだけの月日が経過しているかも定かでない、その友の縁でもあればと、かの国に到着できる日を心待ちにしていた。

 ともあれ、ドワーフの氏族は、鋼の氏族の他、沼、谷、山など、従事する職によっておおまかに別れている。

たとえば沼は医師や研究職が多い、鉱山でのガスや鉱毒の被害に対する研究から始まった氏族で、学者肌の人間が多いという。

 谷の氏族は採掘業を担う鋼に次いで人数の多い者達だ。大地の管理や採掘、一部に錬金術を得意とする者もいるという。

 山の氏族は、山岳信仰に関わる僧侶やその関係者の多い氏族だ。現在、霊峰に存在する山岳信仰系寺院の総本山の最高司祭もまた、山の氏族の者が勤めていると。

 他種族との関りが比較的薄いエルフとよく対比されるが、ドワーフは製鉄、採掘など、工業的な面を担うことの多い種族の為に他種族との関りが深い。あと、酒精の入った飲み物に賭ける情熱も種族を通して高く、各地の麦やら糖類を高く含む作物やらを買い集めることで各地との繋がりが深い、という面もある。

 そのおかげで、ドワーフ王国までの道のりは整備され、比較的難所もなく安定した道行となっている。

 自分の目的には随分と近付きつつある。

 それでは、残りの二人はどうだろうか?

 オルガン。

 腹黒い一面もあるが、基本的に人が好いし情け深い。困っている人は助けるだろうとグレネットは顎を擦る。それに運もよいから、何かのきっかけがあれば、とんとん拍子で帝国程度であればいけるだろう。

 クロウ。

 あいつは。

 グレネットは首を捻る。

 あいつは、自分達の世代で一番と言っていいくらい我が強い。ぼんやりしているように見えるがインテリではあるし、そのくせ意地を張り始めたら誰であろうと喧嘩をする。それも、相手が謝るか、自分が動けなくなるまで絶対に曲げない。悪辣なことだって時には平気でやるから、おそらく鋼の種族としてトラブルを起こすなら、あいつだろう。

 自分?

 自分は、おそらく一番、芯が脆いのだ。おそらく。

 だから、目的以外はなるべく考えないようにしている。

 そう黙考し、グレネットは、己の弱さを溜め息で隠した。


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