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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第一章 旅立ちから
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■06■ オルガン編 第1話『川下り』


 オルガンは西を目指していた。大樹海は東西南北に等しく広がる危険領域であるが、西側には奥地から流れる川が存在していた。そしてそこにオルガンは跳び込んだ。

激流を流れ、滝壺に落ち、川の流れが落ち着くまで半日。

 川べりで休憩していた狩人が、水中から現れた大男を弓矢で射ってしまったのは不可抗力だろう。誰だって警戒する。誰だって武器があればつい使ってしまう。

 鋼の種族ともなれば半日どころか一昼夜息を止めようと平気で、そこらの弓矢など皮膚に刺さりもしないのだが、狩人は相手が人間だと気付いて慌てて近寄っていく。


「す、すまん。刺さらなかったようだが大丈夫か?」

「え? うん大丈夫だよ? ここはどのあたりかな?」

「帝国の端も端、山岳領だけど、あんたどこから?」


 帝国山岳領。大樹海に接する山岳地帯で、元々は山岳国のあった場所なのだが、内乱から生じた国境での戦闘行動から隣接する帝国による占領に至った土地である。当時の王族は一部が処刑され、多くは役人として帝国に雇用されることとなったそうだが、結果として地方の税率が下がったという。


「水利権で揉めていた大河の下流にある国とも帝国の外交で収まったし、昔より住み易くなったくらいさ」


この川も、帝国東側を流れる大河へ合流していく途中の川だという。


「ところで兄さんは、樹海の傍でも通っていたのかい?」

「んー、まぁね。ちょっと川に落ちて、装備もこの通り」

「そりゃ災難だったなぁ。だったら、この近くに坊さんがたくさんいる寺院があるから、そこで助けてもらうといい。しばらく下働きでもすりゃ、当面の食料くらい工面してもらえるぞ」

「そりゃ助かる。よかったら道を教えてもらえるかな?」

「いいぞ。どうせ村への帰り道だ。案内してやろう」


幸運にもオルガンは、狩人の手によって武僧の集うとある寺院へ導かれることとなった。



 辿り着いたのは、山道の途中にある古い密教寺院だった。

 アンカンサーン山岳寺院。巨神マダを祀る山の中腹に居を構える寺院で、教義に基づき僧籍の者達が修行を重ねているという。

 教義の骨子は『神すら屠る巨大なる信義。正しき拳には正しき信念が宿る』。

 その為、山院にいる僧侶の大半は僧兵やモンク僧と呼ばれる戦闘技能を備えた者達という。長身のオルガンと狩人の姿を見かけると、山門へ続く石段を掃いていた禿頭の巨漢がずしずしと降りてくる。


「エンガード殿ではないか。どうなされた?」

「あぁ、ダイネン和尚、ちょうどよかった。こっちの兄さんが森の方から流されてきてね。荷物なんかも全部無くしてしまったというんだ。悪いが、面倒見てやってくれないか?」

「そりゃこっちは来るもの拒まずだが、兄さん、名は?」

「オルガンです。すいませんが、何か日雇いのお仕事でもいただければ」

「洗濯掃除、建物の修理、メシの準備から野草の採集だの、仕事ならいくらでもあるぞ。ま、悪さなぞしなけりゃ叩き出したりもせん」

「助かります。あ、エンガードさんもありがとうございました」

「いいさ気にすんな。それじゃ、俺も家に帰るから」

「おう、それではまたな。エンガード殿」


ひらひらと手を振って去っていく壮年の猟師、エンガードに頭を下げるオルガン。

 対して、にこにこした笑顔はそのままだが、思案するように顎へ手を持っていく禿頭の巨漢、ダイネンと呼ばれていた男は、十分にエンガードが離れたことを確認し、再び口を開いた。


「オルガン君、きみはどこの出身かね?」

「山の方。ただ、地名なんぞもとんと覚えてないのですが」

「いや、聞き方を変えよう。貴方様は、なんという種族であられるか?」


その言葉に対し、わずかばかり瞠目するも、オルガンは短く答えた。


「鋼の種族と、我々は呼ばれています」


深き山岳寺院は、そろそろ夕方に差し掛かろうとしていた。


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